法律のいろは

賃貸物件(アパート)での空き室が財産評価に与える影響と裁判例の傾向は?

2022年6月3日 更新 

  アパート経営をしている場合に,相続になった場合に気になる点が誰が引き継ぐのかという話と相続税での評価がどうなるのかは依然触れた通りです。遺産分割の際の家賃や敷金の引継ぎをどうするのか・遺言や生前贈与などの話は触れたところですが,相続税がかかるかどうか問題になる場合には,財産評価がどうなるのか気になるところです。もちろん,財産評価は遺産分割の場合でも問題となりますが,そこでは相続税評価の際に用いられることが多い財産評価基本通達の場合と一致するかどうかは分かりません。

 

 財産評価基本通達は国税庁が定める相続税に評価における財産評価の在り方を示すもの(行政内の解釈基準,相続税法22条以下で時価など一部財産の評価方法は法律で定められていますが,大半の評価は法律では定められていません)です。不動産やその上の権利の評価も定められています。アパートが存在する場合は土地を誰かに課して建物が存在する場合や部屋の未賃貸している場合がありえます。いずれにしても,法律上実質無償で貸している使用貸借の場合と異なり,有料である賃貸借では借地借家法等で借主の地位が保護されていますので,利用制限が存在するとして経済的価値が減少すると考えられています。この点を財産評価上に反映する規定が置かれています。

 アパートの建物が存在する場合に,建物部分も利用制限がされている(要は賃貸されている部分)箇所は,利用制限による経済的価値が低下するため,その部分×借家権割合を減価して考えるとされています。借家権割合というのが人に貸すことで価値が下がる部分のことです。借家契約も借地借家法などの適用がなされます(契約で排除不可能)ので,更新拒絶などに制限が存在することになります。この点も踏まえて経済的価値が減ったものと評価されることになります。借家契約(賃貸契約)が存在して,こうした利用制限・経済的価値の減額が存在しますので,基本は人に貸している部分(つまり,空き家は貸していないため減価しない)が減価の対象となります。賃貸割合というのは,アパートの各部屋のように独立して賃貸する部分を指します。とはいえ,この評価通達の考え化t内は有力な反対説が存在します。それは,アパート経営に実態に即するならば空室が存在する場合こそが,有効利用できない⇒経済的価値が下がるのではないか,というものです。取引実態上は収益物件で収益がないのであれば,価値は下がります。しかし,裁判例上は,この通達の合理性を認め,法的な制限による経済的価値の減少を考えているようです。

 裁判例で判断が出ているのは,一次的な空室部分は同様に減価するという規定が通達上存在していることから,具体的なケースで「一時的な空室部分」に該当するのかどうか・そもそも,この通達の規定が時価を考える上で問題があるのかどうかが争点になっているようです。ただ,あくまでも解釈の基準ですので,通達に解釈として一定の合理性がある限りは基本はその内容に沿って評価をすることに問題がないとされる傾向にありますので,例外に当たるのかどうかが問題となります。そして,「一時的な空室」は何が該当するのかという点ですが,あくまでも相続は偶然の事情で発生するものですので,実際には恒常的に賃貸されているのに偶然一時的に賃貸されていないから減価しないというのは実態に反した話になるためと考えられているそうです。

 

 裁判例でいくつかこの「一時的な空室」になるのかを判断したものが存在しますが,かなり限定されています。比較的最近の裁判例(大阪高裁平成30年1月12日判決)が存在します。このケースでは,33室あるアパートで7室が空き室であり,ここが「一志空室部分」に該当するかが問題にとなったものです。また,空き室期間は2か月から23か月までのものが存在します。裁判所の判断は,いずれも「一時空室部分」とは認めていません。これに該当するのかどうか微妙に考慮要素に違いがありますが,相続時期において実質賃貸しているのと同じことを要求し,相続開始前後の賃貸状況や相続開始時点に空き室があっても空き室長くなる具体的な見通しがあったのかなどを考慮するとしています。相続開始前に賃貸が終了し,相続開始時点で具体的な新たな店子が決まっていた等の事情を要求しています。こうなると,相当「一時空室部分」はかなり制限されることになります。

 こうした相続税の場面と遺産分割では評価基準が必ずしも一致するとは限りません(費用その他を考えてこの基準を使うことは可能)ので,その点も意識しつつ対応を考えていく必要があります。

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