法律のいろは

会社経営者の相続での注意点(役員貸付金の対応の注意点とは?①)

2022年6月1日 更新 

 一族で経営している会社等では,事業がうまくいかないときの補填などの為に経営者がお金を会社に出し,会社への役員貸付金として帳簿上処理されていることもあるのではないでしょうか?会社経営を行っている方の場合は,事業の引継ぎの他に個人としての遺産相続をどうするのかが問題になってきます。その際にはどの財産あるいは負債を誰に引き継がせるのかという話とともに,財産評価がされても回収できないお金をどうするのか・対応の注意点をどうするのかというものがあります。

 ここでいう役員貸付金も回収の見通しがないケースであるにもかかわらず,財産評価によっては大きな相続税の負担になりかねないという問題点があります。この貸付金も回収の見込みがあるのであれば,回収を図り仮にそこに税金の負担がかかるのに対応するということも考えられます。その場合には,誰に引き継がせるのかを遺言で決めておいた方がいいですが,通常は後継者になる方なのではないかと思われます。もちろん,遺言で会社自体に贈与する(遺贈)ということも考えられます。この場合には,債権者と債務者が同一になるので貸金(会社にとっては負債)はなくなりますが,もちろん,ここに課税(所得税)を受けることにはなります。ちなみに,生前に役員が持っていた株式を後継者に贈与していればこの問題は起きませんが,遺言で貸付金と株式をその会社に譲渡する場合に課税の問題が生じトラブルになったケース(東京地裁令和3年5月21日判決LEXDB25589365)があります。この場合,税金はなくなる方自身に所得税がかかり(法律上,相続開始時点の時価である必要があります)ますし,準確定申告という所得税の申告を相続人になる方は亡くなってから4か月以内に行うとともに納税を行う必要があります。このケースは亡くなった方自身の状況もあって,行政不服申し立ての後の裁判を起こす期間制限に引っかかるかどうか(引っかかれば不適法な裁判提訴となり却下されます)という争点もありますが,ここでは中身の話のみ触れておきます。

 その争点とは,時価を考える(株式と貸付金)上で,貸付金は会社の負債になります。株式の時価を考える上での純資産額(資産−負債)の負債に貸付金額を考慮して差し引けるのかどうかという点です。時価が何であるのかは難しい問題ですし,特に株価は取引が一般にされていないものは算定に困難があります(市場がないため)。取引がされていないものを含め,課税実務上は通達に従うとされており,財産評価基本通達の方式も参照されています。このケースに限りませんが,裁判実務上は合理性を一般に持つという通達の規定は基本的に採用される(その方式に従う)のが原則となります。

 ここでの時価課税は一般に譲渡する場合の所得税の課税は価値が増えた部分に対する課税を行うものでありますが,法人への無償譲渡の場合には,譲渡の時点(遺贈・贈与その他一定の低額の譲渡)で課税を行わないと増価部分へ課税ができないことから行うとされています。このケースでの行政側の主張では,遺言は相続開始前でも確実性を持つものであるかのような主張がされている⇒貸付金は債権者と債務者が会社になるため消滅するから課税すべきではないという話がなされています。この貸付金がなくなる=負債の一部がなくなることへの価値増価を課税の考慮を行うべきというものです。

 しかし,一般に相続開始前の権利関係は生じておらず,遺言はいつでも撤回可能であることからしても事実上の期待が生じているにすぎませんから,遺贈の効力が生じる前に貸付金が譲渡され貸付金が消滅したと考えるのはさすがに無理があるように思われます。その他の理由も述べて,結論から言えば貸付金を負債の一部として差し引くことを認めています。この判断は控訴もされず確定していますが,見解の相違が生じる可能性があります。

 

 これに対し,会社業績が良くない・金額が大きくなっていて回収に問題がある場合にはどうするのかは問題になります。貸付金はs当然ですが,法律上は金銭を貸し付けたことで返済を求める権利を持っていますから,全額そのままを評価するのが原則です。とはいえ,回収可能性に問題がある場合には減額できるのかも問題となります。実際譲渡する際には信用リスクを考えて低く譲渡することもありうるためです。相続税評価については財産評価基本通達が減額できる場合を定めていますが,裁判例上減額できる場合はかなり限定されています。

 これに対し,負債を現物出資して新株発行をする,つまり負債を株式に変えるデットエクイテイスワップという方法を使い,株式を相続対象にする場合には,負債の免除益が発生しますので会社自体が税金(法人税)を支払う必要が出るので,差し引き清算が可能な欠損金などがない場合には対応に注意が必要になります。税理士の方とも相談をしておく必要があるでしょう。ちなみに,この点の説明に誤りがあったことなどを原因にした担当税理士の方への損害賠償請求を認めたケース(東京高裁令和1年8月21日判決)もありますから

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