法律のいろは

土地の運用としてアパートを建てる場合のリスクと注意点(税務面)

2022年5月31日 更新 

 相続における対策としては,配分をどうするか・財産管理として何が適切なのかということと大きく関連して税務面での負担が大きくなるのかどうかという問題があります。行き過ぎた対策は,租税回避行為としてその効力が問題になることがあります。ここでの効力というのは「仮装」行為という実態に反した話であるから,実態通りに課税されるという話と相続における課税は財産評価が問題になるので,その評価を修正するのかどうかが問題となりかねません。ただし,適法に受けることができる税法上の特例の活用には問題がないものと思われます。

 ちなみに,行き過ぎた税務面での対策は,財産評価の方法を国税庁が定めた財産評価基本通達における修正要素(6項に規定)の適用を受ける可能性があります。相続に比較的近い時期に借り入れを行って不動産購入を行い,相続税評価が購入金額よりも大きく下回る場合には,評価額の乖離と税務負担に大きな違いが不動産購入などとの兼ね合いで生じかねません。他の事情にもよりますが,こうした場合には平等の観点から合理的な理由が存在する限り先ほどの通達にこだわらない評価が時価を上回らない限りなされる可能性があります。おそらく,別のコラムでも触れています最高裁令和4年4月19日の判決もこのことを述べるものと思われます。ごく最近の事例の中には,駐車場経営をしている親から子に無償での賃貸をしたケースで,駐車場収入が誰のものか(無償で借りた子が有償で駐車場として貸しているもの)が問題になったものがあります。

 

 不動産の評価方法は相続税評価については財産評価基本通達に定めはあるとともに,生活の基盤である宅地等や事業用の基盤である宅地等は事業の引継ぎやこれらのよって経済的価値が下がるということで,財産評価が下がる特例が法律で定められています。小規模宅地等の特例と呼ばれるもので,一定の要件を満たしていれば,一定面積まで50%あるいは80%評価額が下がることになります。ただ,遺産分割協議でこの特例を誰が使うのか解決がつかない場合などには特例の適用ができない場合もありえます。要件を満たしているかどうかがトラブルになった裁判例も存在します。

 賃貸用の不動産が存在する場合には,同様に利用が制限されるということで経済的価値が下がるからということで,財産評価が下がるということが先ほど触れた通達上存在します。建物や借地権などの評価も同様の考慮から定められています。アパートを建てることで土地の利用制限がかかるのでアパート建設は,これらの特例や評価を活用できることにつながります。また,仮に借り入れをする場合には,相続開始時点で負債が残っていれば借主が被相続人である限り,この負債の残額を差引できることができます。とはいえ,負債が存在することになりますから,アパートの収支がきちんと成り立たないと,相続対策どころか債務整理を考える羽目になりかねません。

 アパートを建てた後修繕だけでなく大きく改築した場合には,特に相続開始時点に近いケースではかけた費用を考慮して価値が増えたと判断されることもありえます(建築中の建物と同様にかかった費用の70%評価とする通達の扱いを考慮した行政の判断をあながち不合理ではないとして是認した裁判例が存在します)。このほか,賃貸用の部屋(独立して賃貸用に使える部屋)に空きが存在する場合には,通達上評価額の減額ができないのが原則で,裁判例上も例外的に減額できる場合を相当制限する判断が出ています。

 このように,アパート活用は相続対策にはなりますが,税務面でもその後の対応に注意が必要です。また,収支がなんともならない場合にはそもそも意味がありませんし,建てたアパートを相続人の誰が取得するのかを予め決めておかないと遺産分割をめぐる問題が出てきかねません。こうした面での対応にも注意が必要になるでしょう。

 

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