法律のいろは

相続税の算出の際に差し引かれる「債務」とは?

2022年5月29日 更新 

 相続や遺産分割の際に,一定程度以上の財産があれば問題となるのは相続税の負担となります。日本の相続税の課税方式は,財産評価した遺産・その他相続税法上は衡平などの観点から相続税の課税対象に含めるもの(保険金や相続開始前3年以内の生前贈与等)を加えて対象財産を出し,ここを基に計算します。そこでは対象財産から「債務」を控除(差し引く)し,基礎控除という金額(相続人の数により異なります・ここでの相続人のカウントの仕方も遺産分割の際や遺留分の話とは異なる点があります)をした残額を法定相続分で各相続人が遺産を取得したことを前提に税金の総額を計算します。そのうえで,実際に取得した財産の額に応じて税金の負担を配分します。この後で配偶者控除(配偶者の税額軽減)がなされる・その他の控除の一部が問題となります。

 今回触れるのは「債務」の範囲内の話です。本来は亡くなった方が負っていた負債になりますが,葬儀費用等一定のものも含まれます。他方で,「確実と認められる」「負債」のみが対象となっていますので,「確実とは認め」られない負債は対象に含まれなくなります。ここでの「確実とは認め」られない負債の代表例が亡くなった方が負っていた保証人としての責任部分になります。保証人としての責任部分は,保証人としての地位が相続される場合には相続人に引き継がれることになります(例えば,賃貸での借主側の保証人)が,どこまでの負債を負うのかは賠償金額が確定した等の事情がなければはっきりはしません。また,保証人としての支払いをしたとしても,本来負債を負っていた方(先ほどの例で言えば借主)に請求をすれば支払いを受けることになります。そのため,基本的には「確実とは認め」られない負債とされています。

 

 また,遺産の管理や遺産分割での弁護士費用や相続税に関わる税理士費用も,相続開始時点に存在していたわけでもなく,各調査あれているものでもないため,負債としては差引きできません。そのため,原則は相続開始時点に亡くなった方が負っていた「負債」「で「確実と認められる」かどうかが祭祀引く対象になるのかが問題となります。比較的最近国税不服審判所の判断で問題となったもの(国税不服審判所裁決平成30年7月9日)を触れておきます。裁決文からはやや判然としませんが,建物所有目的の借地契約を締結した借主側の相続人が,借主の亡くなる前に貸主から契約解除をされ,建物の撤去と土地の明け渡しを求められたというものに関わるもののようです。ここでの建物の撤去と土地の明け渡しに関わる費用が「確実と認められる」「債務」なのかどうか・債務の金額がいくらなのかが争点となっています。

 

 建物を建てて利用する建物所有目的の借地契約では,原則として借主の立場が強化されています。その保護は,貸主からの契約更新拒絶ができる場合を制限されています。そのうえで,期間満了で契約が終わる場合には貸主側に建物の買取を貸主に請求する権利が認められています。例外は事業用に用いる「事業用借地権」・非常に長い期間の利用が可能な「定期借地権」では更新がなされないことが想定され,建物の買い取り請求を契約上排除することが可能です。言い換えると,それ以外の一般のケースでは更新拒絶へのハードルや建物買い取り請求の権利を契約上制限することはできません。

 建物買取の請求は期間満了の場合に認められているものですから,賃料不払いの継続や当初想定されていた利用方法からの著しい逸脱その他の信頼関係を破壊する話が存在する場合の中途契約解除(貸主側)からの場合は認められてはいません。しかし,ここでも信頼関係の破壊というのは相応のハードルですから,そう簡単に契約解除⇒建物撤去・土地明け渡しが認められるわけでもありません。

 いずれにしても,費用が大きくかかるのは建物の撤去になるでしょうけれども,借地契約の場合には撤去を認められる場合はそうは多くありません。建物買い取り請求をするかどうかは借主側の権利ではありますが,莫大な費用を投じて撤去をする理由はないでしょうから,通常は買い取り請求をするケースが多いのではないかと思われます。こう考えると,建物の撤去や土地明け渡しの費用が「確実と認められる」「負債」に該当する場合はそうは多くないものと思われます。

 

 とはいえ,地代の支払いをしない期間が極めて長い・是正が全く見られない・そのためりわく行為が存在する場合には,貸主からの解除⇒建物撤去(収去)・土地明け渡し請求が認められる可能性があります。賃貸借の場合借主の地位は相続されますので,相続開始前に撤去・明け渡しが顕在化していれば,亡くなった方の「負債」と言えることになります。今回取り上げるケースでも,亡くなった借主が借主としての債務を怠ったことを理由に貸主から契約解除をされ,その生前に建物撤去・土地明け渡しの裁判を提訴されています。裁判途中で相続に至り判決自体は訴訟を引き継いだ相続人に建物撤去・土地明け渡しが命じられています。その費用が「確実と認められる」「債務」かどうかが争われたのがこの行政不服申し立ての手続きとなっています。

 結論から言えば,撤去の費用についての見積もりなどのうち合理的な金額について「確実と認められる」「債務」と認められています。これは,「「確実と認められる」というのは債務の存在だけでなく,履行をすることが法律上のみならず事実上・道義上確実と認められるものを指すと考えられており(広島高裁昭和57年9月30日判決),金額まで確定していなくてもいいと考えられているためです。このケースでは,期間満了ではなく債務不履行での解除のため,建物の買取は認められず,契約上借主には原状回復(契約時点で建物がなければ建物を取り壊して元に戻す・契約上建物撤去義務も設けられていればこれに限らず撤去すべきこととなります)があります。したがって,債務不履行解除に基づく撤去・明け渡し請求がなされている限りは,解除の有効性がある限り撤去・明け渡し義務は顕在化しています。そのため,確実に履行する必要があります。裁判所での判断があれば言うまでもありません。同じことは契約満了時の「事業用借地権」「定期借地権」についても言えます。

 このケースでは行政側が撤去するか・借主に引き渡す(譲渡するか)選ぶことができるから確実とは言えないという主張がなされているようです。建物買い取り請求権が存在する場合にはこのように言うこともできますが,そうでないケースでは言いにくいように思われます。

 

 このほか,金額がいくらになるのかも問題点となっています。実際にかかった金額は全て必要であったということもできるでしょうけれども,無駄工事や明らかに不合理なものは撤去の費用とは言いにくいので,この限りで判断を受けるのはやむを得ないことのように思われます。もっとも,大きな金額のかかる場合には通常必要最小限の金額にするでしょうから,何かしらの事情がない限り大きく問題になることもそうはないように思われます。

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