法律のいろは

相続対策がトラブルになる場合(契約書作成の経緯や成立・有効性が問題になったケース)

2022年6月4日 更新 

 相続対策には引継ぎを誰に行うのか・相続人の間でトラブルが生じないようにするというもののほか,税務面での対策というものが存在します。税理士の方が相談を受け対応しているものが多いかと思われます。この記事を欠く時点(令和4年5月)ではいまだ係争中のようですが,比較的最近こうした点が問題になったものとして大阪地裁令和3年4月22日判決が存在します。このケースでは,判決文からすると,地主の方が持っている駐車場として使っている土地について,税理士法人にも相談の上子供に無償で貸す(実際には完全には無償ではない)契約書などを作成したことについて,この契約が成立したのかどうか・成立しても有効なのかどうか等が問題となったものです。

 子どもが有料で駐車場を元々化していた相手に貸すことになるので,無償で貸したといえるかどうかによって,駐車場収入がその地主の方のものか・子どものものかが変わってきます。この裁判自体は,この契約が存在しない・無効・その他税法上の規定から真実の権利者が地主の方と言えるのかどうか等が争点となっています。当局が地主の方が駐車場収入を持っていることを前提に所得税などの課税を行ったことの取り消しを求めた裁判になります。

 

 ここでは,契約書が存在しそこに地主の方の押印や署名がある点は問題なく,この書類があっても契約が成立していないといえるか・そもそも後付けで作られた書類かどうか等が問題となっています。後付けとは税務調査になってからつくられたもので,後付けであれば当然契約は存在しないことが多くなります。

 契約自体は書類が法律上要求されていない限りは口頭でも成立します。ただし,成立というのは法律でその契約で不可欠な要素について合意が成立したことが必要です。無償で貸すという「使用貸借」というものについては,法律改正によって最近では合意のみで契約が成立し,無償で使わせること・後に返還することの合意があればいいとされています。

 書類がないことも多い契約ではありますが,トラブルを防ぐには書類を作成しておいた方が無難です。裁判上書類を作成したという点には法律上のルールが存在します。このケースでも問題となった署名や押印をしているケースでは,その方の印鑑で押印をしておくことで,その方の意思に基づいて押印がなされ作成したものと推定する事実認定の判断ルールが確立しています。契約書ですから,合意をしたという方が作成したといえれば通常は契約は成立しています。印鑑を他人に預けていたところ勝手に使われた・盗まれた印鑑を勝手に使われたという場合であれば,その方の意思に基づく書類ではなくなるので推定は崩れます。推定が崩れなければ,合意書を作成したということで合意による契約成立は言いやすくなります。

 

 このケースでは書類の作成された経緯や税務調査における地主の方の回答内容やその流れ等の事実経過とその評価が問題となっています。その際に地主の方が押印の事実や書類を認識していないのかどうか等の点が問題となっています。また,書類が地主の意思により作成されていても,実際には税金対策に過ぎず駐車場収入を地主のものとする意向やそれに沿った動きがある場合には,実際とは異なる外観だけの契約がなされている場合には,虚偽のものとして無効となります。これとは別に税法上には外観と実質で収益や資産の帰属が異なる場合に実質にあったところに帰属させ課税を行うルールが存在します。このケースでは無効かどうか,あるいは成立を妨害する事情で問題となると思われる事項が,先ほどの押印⇒意思に基づき作成された書類という推測を崩すべき事情に該当するのかどうかという形で問題とされています。問題とされる点が違うのかなという印象は持ちますが(成立の有無や有効性の問題ではないのかという点),いずれにしても結論には影響はないように思われます。また,租税を回避する意図のみで虚偽の外観とは当然には言えないようには考えられますが,実際に駐車場の賃貸権限を有する振る舞いが見られれば虚偽の外観と相当言いやすくなるでしょう。

 

 このケースでは裁判に先立つ行政での不服申し立ての手続きでは,先ほどの事実認定の点で,地主の方が書類や押印を認識していなかった⇒意思に基づく作成とは言えない(合意が示されていない)ということで契約の成立を否定しています。これに対して,地裁の判決では契約の成立を肯定しています(無効とも判断していません)。書類の内容や地主の方の知識・経験・行動傾向などを踏まえ,税務調査での回答内容について厳密な法的な意味までは認識せず責められたと考えての防御行動などという点から不自然ではないと判断しています。

 問題となる各要素を同考慮して判断するのかは難しい内容であり,このケースでは書類の準備(節税相談を受けていた税理士の方で準備した模様です)やどこまでの説明を地主の方にしていたのか・認識や押印の状況などによって異なってくるところです。厳密な記録がない場合には,様々な事実から推定を覆す事情があるのかどうか・実態と異なる契約であるのかなどの判断がなされるところです。

 

 書類に署名や押印をする際の認識状況や押印を誰がしたのかなどの点で後でトラブルにならないようにするにはきちんと記録を残しておく必要があります。どのような契約内容なのか口頭でも確認した場面の記録などもありうるでしょう。作成日時が問題になるのであれば公証人役場での確定日付の取得という方法もあるでしょう。こうして,後付けの書類かどうか・書類や契約成立に疑義がないようにしても,実態と異なるやり取りなどがなされていると契約が無効であるなどの問題が生じる可能性もあるので,この点の意識も重要です。今回取り上げた税務関係の場合には税金回避のためとなると,税務上のルールによる問題も出てきかねませんので,そうした問題が出ないようにする注意が必要です。先ほどのケースが最終的にどうなるのかの判断にも注目ではありますが,事実認定で様々な要素から事後的に考える問題を生じさせないための注意も必要でしょう。

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