法律のいろは

会社経営者の相続での注意点(役員貸付金の対応の注意点とは?②)

2022年6月7日 更新 

 会社への貸付金についての相続税における財産評価での問題点,つまり回収可能性に難があっても評価額を下げるのにはハードルが高い点は前回の記事で触れました。前回負債の現物出資の問題点等も触れていますが,それではこうした貸付金の処理を何とかできないのかという点について少し触れていきます。

 

 まず,考えられる方法は債権放棄です。貸付金を放棄するというもので,貸付金自体はなくなります。当然ながら,会社に対して貸付金分を贈与した扱いになるので,その会社にはその分の法人税が発生します。この部分は前回の負債の現物出資と同じ話になります。ここでは触れていませんが,他にその会社に株主がいる場合には,その方の持っている株式の価値を無償で上げる形になるので,ここの部分で贈与税が生じる可能性があります。会社の株式その他の引継ぎで考えている場合には,思わぬ負担になる可能性があります。次に前回も触れましたその会社や後継者に贈与(遺言による遺贈を含む)を行うことですが,ここでも法人税や贈与税の問題が生じます。会社に対する税金はそれまでの赤字が大きいから返済に難があるという場合には,その欠損金の繰越部分が十分に存在すれば課税を受けるということはないでしょうけれども,注意が必要です。また,回収見通しに問題のある貸付金が相続人に付け替えるだけではないのかという点がこの方法の問題点になります。

 最後に,会社から当該経営者に対して返済を行えるようにするという方法も考えられます。問題は返済原資をどう確保するのかという問題です。役員報酬を減らして返済用に充てる(これも付け替えになります)という方法もありえますが,この方法は先ほどの贈与になるのではないのかという話が出にくくする点ではメリットですが,一度決めた報酬の減額には合意の存在が必要なので,証拠も含めきちんと残しておく必要があります。この方法では,本来経費(損金)である役員報酬分利益が出るので,ここがどうなるのか(全体としてどの程度返済が可能なのか)のシミュレーションが必要になるでしょう。また,そもそも返済原資を確保できない・役員報酬がそもそもあまりない場合には,貸付金の放棄とともに会社の清算を考える方向も考えられます。会社の清算には債務超過などの状況があれば破産などの整理も考える必要がありますが,債権者との話し合いによって清算を考えていく方法(裁判所を活用する場合には特定調停と呼ばれる方法も考えられるところです)もあります。また,解散して清算を進めていくという方法もあります。ケースごとの事情によるでしょうから,弁護士・司法書士・税理士など専門家に相談をしてどういう方法がいいのかを考えていく必要があるでしょう。負債が複数ある場合や一部有望な事業があるけれどもという場合には,その状況に応じたスキームを考える必要が出てくることもありえます。当該会社が破産などの法的整理やそれに匹敵する事情がある場合には裁判例上も財産評価基本通達上も回収の難点を財産評価で考慮するとされていますが,ここまで行くと貸付金の問題以外のところもありますので,どうするかの検討は重要かと思われます。会社が絡む場合には税務面の問題が大きくなる可能性がありますので,ここは頭に入れておいた方がいいでしょう。

 

 回収リスクのある貸付金をどうするかは個人に対するものでも存在します。ここでは,金額にもよりますが,貸付金の存在自体が曖昧であることもあります。大きな金額となると贈与は考えにくいものの,小さな金額となるとお金の授受や返済の合意などが曖昧になるという話です。お金の回収で問題になりますが,後にきちんと回収をしようと考えている場合には借用書などはきちんと取っておく必要があります。逆にきちんと取っている場合には,回収に難がある場合には債権放棄などを行う・そのままにしておいて時効期間が経過してしまうということもありえます。前者であれば相手に贈与税が後者は単に回収が難しくなるだけという面がありますが,どういう選択がいいのかはやはり検討しておいた方がいいでしょう。そもそも,返済能力を考えて貸すということが重要なのは言うまでもありません。

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