法律のいろは

遺産の開示が不十分で遺産をめぐる対立が大きい場合に,相続税の申告義務は出てくるのでしょうか?

2022年7月8日 更新 

 遺産分割を中心とした相続に関する紛争が存在する場合に,その争点は相続人なのかどうか・遺産がどこまであるのか・遺産分割の修正要素なのかどうかなど多種存在します。遺産分割の対象は相続時に存在しかつ遺産分割時点でも存在するのが原則ですが(例外的に相続人の合意があれば遺産分割までに無くなった財産を対象とすることも可能な場合があります),そもそも遺産がどこまであるのか分からない場合も存在しえます。

 この場合に,亡くなった方が取引をしていただろう金融機関に取引履歴を取り寄せる(相続人の一人でも可能)・居住していた市町村から名寄帳を取り寄せる(不動産は市町村ではなく法務局から可能になる制度が導入されます)等の調査方法があります。とはいえ,それでも存在不明な財産はありえますし,使い込みの有無も問題となるタンス預金のようなものはその存在を示すのは,財産管理に関わっていない相続人の側からすると難しい問題があります。

 

 こうした対象財産がどこまであるのか分からない・財産の帰属や遺言の有効性等について紛争が生じている場合には,その相続人などの方が財産を取得するのか確定していません。その意味で遺産から何を取得するのかははっきりしていませんが,相続による財産取得に関わる相続税の申告義務がなくなるのかは問題になります。

 結論から言えば,基礎控除を超える財産を超えた取得がうかがわれる場合には相続税の申告を期限内に行う必要があります。不足があれば修正申告を行い,多すぎると更正の請求と呼ばれる手続きを後に行う形になります。先ほどの話でいえば,遺言が無効との判断が出てもらえる財産が存在しなくなるのであれば更正の請求ということになりますし,遺産の額が増えて課税価格が増えるということがあれば修正申告を行うということになります。更正の請求は,できる場合が法律上限定されていることや期間制限が存在することにも注意が必要です。

 申告をしないと,ペナルティとして遅延損害金にあたる延滞税や無申告加算税(期限内に税務申告を行わないことへの割増ペナルティ)を受ける可能性があります。税務当局の見解としては,先ほどの前提に沿った形の通達を出しています。裁判例も大阪高裁平成5年11月19日判決判例時報1506号99頁等で概略は先ほど述べたことと同じ趣旨のことを述べて,税務申告の義務と申告をしないことのペナルティは免責されないとしています。このケースでは,遺産の多くが一部相続人により隠匿されたこと等によって(争点は相続財産の範囲や遺贈の効力などであった模様です)申告しようがなかったという事情がペナルティを免責する「正当な理由」があると評価できるのかなどが問題になったものです。「正当な理由」ありとされるには,このペナルティが適正な自主申告を推進し・期間内にきちんと申告した方との公平を図るための制度ということから,落ち度がないことが必要と裁判例上されています。

 相続税の申告は相続人が共同して行うことができますが,相続紛争が生じている場合には共同で申告をすることが難しいことがあります。そもそも共同歩調をとることが難しい場合・申告に関して調整を行うことが難しい場合がありえます。遺産分割協議が期限までにできない場合には,法定相続分での各財産を取得したとして申告する義務があります。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減といった税額負担を下げる措置も遺産分割協議で話がつく必要がありますが,とりあえずは前記の申告を行うとともに,期限の延長について3年で決着がつかない場合に税務署長への延長の申請を行う必要がある点も無視はできません。

 

 相続税の申告が問題となるのは相応に財産がある場合ですので,税理士の方に相談をすることは多いと思われます。紛争性のある話では今述べた点を弁護士・税理士に連携をとって対応をしてもらった方が抜けが生じる可能性は小さくなるものと思われます。

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。