法律のいろは

亡くなった方が有していた不動産についての賃貸借契約に基づく敷金の返還請求義務は当然に分割されるのでしょうか?

2022年7月25日 更新 

 賃貸借契約の貸主としての地位は基本的には賃貸物件を所有している方が有するとされています。これは,賃貸物件を持っている方でないと物件を使ってもらうということはできない等の理由があるためです。貸主・オーナーが亡くなった場合には遺言がない場合には,賃貸物件の所有者が誰になるのかは遺産分割により決めることになります。ということは,貸主の地位を引き継ぐのも遺産分割協議の結果により決まります。敷金とは,賃貸借契約中に借主が家賃の未払いをする・物件を破損させるなどによる賠償を担保するためのものです。賃貸借契約とは別に預けることを内容とする敷金契約に基づくものですが,賃貸借契約と密接に関係するものです。ただ,お金を返還するというのが敷金返還義務(裁判例上は賃貸借契約が終了し,明け渡しを借主が行う時点で生じるとされています)が当然に相続人に分割されるのかどうかが問題になります。

 

 比較定期最近の裁判例(大阪高裁令和1年12月26日判決判例タイムス1474号10頁)ではこうした点の判断がなされています。問題となるケースでは,建物等所有者で貸主である方がなくなり,その後借主である方(会社)が貸主の相続人について法定相続分に応じて当然に敷金返還義務が引き継がれた・法定相続分で敷金の返還金を支払う合意が相続人の間でなされたことを根拠に相続人の一部の方に返還の請求を行ったというものです。このケースでは返還請求の前提として賃貸借契約の契約解除などが行われています。また,このケースでは亡くなった方が外国籍であったために相続関係が日本の法律の適用出なかったという点で特徴があります。外国籍の方が亡くなった場合にはどこの国の相続関係に関する法律の適用(特に相続人が誰かなどの問題等)が問題となります。どこの国の法律が起用されるのかを決める日本の法律では,その亡くなった方の本国法が適用されますので,その方の国籍国の保瓜生が適用されます。相続関係の調査などには日本での相続にはないハードルが存在します。

 

 話はそれましたが,結論として裁判所の判断(1審・2審ともに)敷金の法定相続分での引継ぎを否定し,請求を認めていません。その理由として,敷金は賃貸借契約とは別とはいえ密接にかかわっており,最終的に契約終了・明け渡し時点に借主に余ったお金を返す際の回収についてのリスクが生じないようにする必要性・貸主変更の際に新たに敷金を入れなおす負担を考慮したためとされています。この理由から,敷金は新たな貸主に当然に引き継がれるとされています。敷金の返還義務もお金を返還する義務なので当然に分割されるという考えも出てはきますが,こうした敷金と賃貸借契約との関係から判断をしています。ちなみに,法定相続分でお金を支払う合意があったという主張の点はこの縁の経緯などが示されていないため合意が認められないとしています。

 これまで賃貸物件を売買した際には賃貸借契約と所有者との関係・敷金との関係から当然に引き継がれるとされていましたが,相続の場面でも変わらないというのは言えます。借主側の回収リスクや契約ごとの関係は貸主が変わる理由が何であれ変わらないところになります。

 最終的には遺産分割によって物件を引き継ぐ方が誰になるのかによって決まるところになります。つまり,物件を引き継ぐ方に敷金の返還義務が引き継がれることになります。この際には敷金用の預かり金が存在する口座まで当然には引き継がれませんので,遺産分割協議の中で引継ぎの話をきちんと取り決めておく必要があります。また,敷金の返還に関する合意自体は相続人自体でできるとは思われますが,全体の引継ぎを含めてきちんと決めておいた方が問題は生じにくくなろうかと思われます。

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