遺産分割を行う際に,対象となる遺産の範囲や評価の問題が生じることもあります。このうち,遺産の範囲は本来は遺産分割に争いが生じ家庭裁判所の判断(審判)に至った際でもその判断に拘束力(別途後で裁判で争うことを禁止する意味合い)までは生じません。他方,遺産分割協議や家庭裁判所での調停での話し合いでは相続人・遺産の範囲・遺産の評価に関し合意が中間的であっても取られることがあります。この意味合いはどういったものでしょうか?今回は遺産の範囲や評価(金額がいくらなのか)に関する合意の意味合いについて触れていきます。
遺産の範囲は最終的な解決は民事裁判(地方裁判所や簡易裁判所)での手続きを行うものではあります。ただし,各相続人の間で争いがないのであれば紛争は生じませんし,合意には相応の拘束力が生じることになります。そもそも,合意を行うのは紛争が新たに生じないようにするという意味あいを持ちます。その後その合意は間違いであった等の理由から合意内容に反する言い分を出すことが当然にできるのかどうかという問題が出てきます。
これに対し,遺産の評価については別途民事裁判で争うということは基本的にはないので,遺産分割協議や調停・審判での決着を図ることになります。
あくまでも話し合いにおける中間合意は争点を減らすという意味しかなく,紛争解決によってその後新たな請求その他ができなくなるというものではありません。その意味では,状況に応じて中間合意の内容に縛られることなく異なる言い分を出せることになりそうです。他方,これではいつでも問題を蒸し返ししてご破算にすることができるという問題が生じることになりかねません。調停や審判の手続きを規律する法律には信義誠実に手続き進行を行う(これは裁判所だけでなくご本人も)義務があるので,これに反すると評価される場合には蒸し返しは許されないことになります。同様に,民事裁判においても,一般原則としていったん合意が取られている事項に矛盾した言動が信義に反すると評価される場合も出てきます。もちろん,前提事項に想定外の事項があったなどの場合には例外がありえますが,限られる可能性があります。
遺産の評価に関する中間合意の後の新たな主張を提出できるかどうか等について判断をした裁判例として東京高裁昭和63年5月11日決定判例タイムス681号187頁があります。亡くなった方の有する遺産に含まれる土地やそのうえに建てられたビルの評価・相続開始後ビルの賃料が遺産分割の対象になるのかが主な争点となったものです。このうち後者は既に最高裁でも遺産分割の対象外になるのが原則である旨の判断がなされています。前者については,家庭裁判所段階(1審)の段階での評価資料によってもその判断が違法不当になる場合のみ,高裁段階での新たな評価に関する主張などを許すべきであると判断しています。そのうえで,1審判断に違法や不当と評価できる点がないうえに,1審段階で一度は不服申し立てをした方自身もビルや土地の評価に同意をしていた点もあげて,評価には問題がない旨を判断しています。評価について一度同意をした点も後で争う(このケースの場合には家庭裁判所の判断が出た後の段階)ことへの影響をうかがわせるものと言えます。
ここで家庭裁判所の手続きでは蒸し返しが許されないということはその後の手続き(調停や審判)において,中間的な合意の内容が判断の資料になるということを意味します。裁判での蒸し返しを許さないということは,そうした主張を認めないその他否定的な意味合いの判断がされる可能性があることを意味します。そのため,中間合意をする場合には,それでいいのかをよく検討する必要があります。
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