法律のいろは

死因贈与契約によって預金を譲る場合の問題点とは?

2022年7月27日 更新 

 遺言で贈与するという遺贈が自筆証書遺言として無効な場合やその他契約書を作成して亡くなる際に贈与するという死因贈与契約の活用というものがあります。自筆証書遺言として無効な場合に当然に死因贈与契約として有効ということにはなりませんが,ここでは有効性の問題は別のコラムで触れているので,銀行預金を死因贈与契約で譲る対象にする場合の問題点を触れていきます。

 

 まず,死因贈与契約でも遺贈と同様に個別の銀行預金を譲ることは可能です。銀行預金を譲渡する場合には死因贈与が契約として有効かどうか以外に,払い戻しが問題なくできるのかどうかという点も問題となります。比較的最近裁判例で問題として取り上げられたものがあります。東京地裁令和3年8月17日判決LEXDB25600771を取り上げます。このケースは亡くなった方が相続人のうちの一人との間に死因贈与契約が締結されています。士業法人がその契約の執行者として契約上指定され金融機関に払い戻しを求めたものの応じてもらえないために,預金払い戻しの裁判を起こしたものです。

 問題の背景として,銀行取引の約款では預金を預金者から他の方に譲渡することが禁止されていることが多いこと・金融機関は相続関係の紛争のリスクやここから派生して間違った方に払い戻しをすることで二重支払いをすることを嫌うこと等から,相続人全員の同意を得ることを求めることが多い点があります。判決文からは,このケースでは譲り受けた側(士業法人側)は金融機関が求めた他の相続人の同意の取り付け書面を示してはいないようです。また,判決文では明示されていませんが,記載からすると公正証書ではない契約書のケースであった模様です。

 

 争点としては,主には死因贈与契約が先ほどの約款上の譲渡禁止の対象になるのかどうか・仮に対象となったとしても払い戻しを拒むことが信義に反するのかどうかという点です。他に,死因贈与契約の場合でも遺言による贈与(遺贈)の場合と同様に執行者を選ぶことができるのかどうかという点があります。

 法律上,死因贈与契約には遺贈にかかわる法律ん規定が使われる(準用される)と規定されています。遺贈については譲渡禁止の対象となる債権譲渡というものには当たらないとされている一方で,遺贈は遺言で遺言者が単独で行うものであるのに対し,死因贈与は契約で譲る方と譲り受ける方の合意によって権利を移すものです。遺贈と同等に考えるとなると禁止の対象にならない⇒払い戻しは可能なはず,となります。他方契約での移転なのだから禁止の対象となると考えれば,払い戻しはできないことになります。判決では,契約である以上は禁止の対象になると判断しています。

 そのうえで,払い戻し拒否が信義に反するのかという点を検討していますが,結論として反しないとしています。先ほども触れたように,払い戻し拒否には紛争の可能性と二重支払い防止のためという理由があります。あわせて譲渡禁止特約(約款上の特約)には預金者に対して金融機関が持っている貸付金などを相殺しやすくするなどの理由があります。このうち,前者の理由はいかに積極的に他の相続人が争う意思を示していない場合であっても否定はできないことから,相続人が争わない意思を示さない限り払い戻し拒否をしても信義には何しないと判断しています。なお,判決文では他の理由も示されています。

 そもそも,公正証書遺言で遺贈という形をとっておけばそう簡単に争えなかったことや譲渡禁止の約款が問題にならなかったという面があります。また,契約書による新贈与契約の場合であっても,贈与者の健康状態その他によっては無効とされる可能性は残りますし,払い戻し拒否が信義に反しているという信義則違反と呼ばれるものは極めて例外的な話でハードルが高いものになります。先ほどの判決文でいう,ああ二重払いのリスク・紛争のリスクというものは積極的に他の相続人が争っていない限りは基本は小さなものと言えるでしょうけれども,リスクの存在を考えて拒否をすることは身を護るためにはありうる話なので,信義に反したとは言いにくい面があります。

 こうして考えると,一般に譲渡禁止特約などハードルがある場合には,そこを避ける簡便な方法をとることの意味合いは多いのではないかと感じます。このケースでは契約書を作成できるだけの判断能力があるならば遺言で判断能力が問題になるとは考えにくいと考えられますので,遺言書で対応していれば問題は生じなかった可能性があるのではないかと思われます。

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