法律のいろは

負債を引き継いだ相続人が亡くなった場合の相続放棄をするにあたっての注意点は?最近の裁判例から

2022年7月28日 更新 

 相続の際に負債が亡くなった方に存在している場合に相続放棄や期間制限が大きく問題となります。このテーマは既に他のコラムで触れているためここでは触れませんが,負債を引き継ぐことになる相続人が期間内に相続放棄をきちんと行っていれば,問題はありません。その相続人の方は相続放棄によって負債を引き継ぐことはありませんので,更なる相続人がその負債を引き継ぐことはないためです。具体的に言えば,子どものいない夫婦で夫が死亡したケースで考えてみます。妻が相続人となるので,夫に負債が存在しても妻について相続放棄がきちんとなされていれば,妻の相続人が夫の負債を引き継ぐことはありません。このケースで妻側には兄弟姉妹が相続人でいる場合には,妻について兄弟姉妹の子どもにも影響が及ぶ場合が出てきます。例えば,妻が相続放棄をしないで死亡し,兄弟姉妹のうち無くなっている方がいてその方に子供がいる場合にはその子供も相続人になります。

 そのため,妻が相続で引き継いだ夫の負債を相続することになりかねませんので,ここでも相続放棄が問題となってきます。少し変わったケースで妻が夫の連帯保証人となっている場合には,夫の相続放棄を行っても妻自身の連帯保証人としての責任は消えませんので,妻についての相続放棄が同様に問題となってきます。

 

 相続放棄は期間制限が短く守れなかった場合に,特別な事情があれば期間のスタート時点が遅くなることによる救済の可能性もありますが,そのハードルは相当に大きいものとなります。したがって,先ほどのようなケースでスタート時点がどこになるのかは重要な問題です。法律上は,自らがそうぞk人となる相続が生じたことを知った時とされ,先ほど取り上げた相続放棄をしなかった相続人についてさらに相続が発生した「再転相続」という場合には最高裁が判断を示しています(最高裁令和1年8月9日判決)。これによると,「再転相続」によって相続人となった方が相続放棄をすることなく日気づいた前の被相続人についての相続での相続人としての地位を自らが知ってからがスタート時点であるとされています。分かりにくいので先ほどのケースで触れると,亡くなった夫について相続人である妻が相続放棄をしない(承認をしないことも前提となります。その後放棄はできなくなるため)まま亡くなり,その兄弟姉妹が引き継いだとします。当然ここには夫の負債を妻が相続し,その部分を相続するという部分が存在します。

 相続が続き,相続人となる方と以前亡くなった方との関係が疎遠な場合には,いったいどのような資産や負債を引き継いだのかは必ずしも明らかではありません。もちろん,詳しく調査をすれば話は変わるかもしれませんが,直接ではない相続(先ほどのケースでの夫の段階)で負債がどう引き継がれたのかを分からないまま相続放棄をすることなく過ごしていて突然お金の請求がなされることが問題となる点です。比較的最近の裁判例(東京地裁令和1年9月5日判決判例時報2461号14頁)では,夫の負債について保証人となっていた妻が死亡し,子どもがいないために妻の父母も相続人となった・父母の死後その子供(妻の兄弟姉妹)がさらに相続人となったケース(厳密にはもう少し違う面もあるようです)について,お金を夫に貸していた金融機関から貸金を譲り受けた業者がお金の請求(保証人としての支払いを求めるもの)を相続人(妻の兄弟姉妹にあたる方)にしたものです。

 このケースでは由時受けた業者からの通知などの後に相続放棄の手続きがなされており,その有効性が争点となっています。期間制限にかからなければ相続放棄による支払い義務を負いませんし,そうでなければ支払い義務を負うことになります。

 

 このケースについて裁判所の判断では,先ほどの最高裁の判断を前提としつつも,期間制限が本来スタートする時点で相続放棄をしなかったことが,相続財産がないと信じたことやそう信じたことに合理的な根拠が存在すればあ,相続財産の一部を認識できたはずの時点からスタートする(スタートする時点が遅くなります)点を話の出発点としています。

 そのうえで,妻の両親が妻を相続した時点の認識やその際の事情から見て,妻に相続財産がないことを法理的に新たといえるだけの事情があるのかどうか・両親を相続した方(先ほどの裁判では被告になる方)についてスタートを遅くする事情が存在するのかを判断しています。こう判断するのは,妻の両親について既に相続放棄ができない状況であれば,二次相続を考える必要なく負債の引継ぎが確定するためです。ここでは事実認定や判断の枠組みで,妻の両親に財産や負債が知らないといえるだけの事情(夫や金融機関が負債の存在や財産の存在を通知した事情の有無等)を判断しています。負債が多く存在あるとの連絡があれば通常相続放棄をするだろうという話が前提にあります。

 そして,二次相続についても同様の判断枠組みで判断をしています。ここでの判断を行う際には両親が既に負債などが存在しないと考えてもやむを得ない事情がある話になるので,二次相続の相続人が特に知っているだろう事情がないと通常は知らないことになりそうです。実際,このケースでも遠方にその相続人が済んでいたことを踏まえ両親すら知らないことを知っているのは無理だろうということで,相続放棄のスタート時点が遅くなる(このケースでは期間制限切れではなく有効な相続放棄)ということで業者の請求を退ける判断がなされています。

 

 このケースでも明らかなように,二次相続(「再転相続」)の場合で相続放棄の有効性を示すための例外的な事情を一次相続の時点から示していく必要がありますので,請求を受けた側の負担は軽いとは言えません。疎遠な親族の場合であっても,負債の存在する可能性等の確認は怠れないことを示すように思われます。

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