法律のいろは

相続人の間の相続分の譲渡が,遺留分侵害に影響があるのでしょうか?

2022年7月29日 更新 

 相続人の間で遺産分割協議に関心のない方から相続分を譲渡してもらうということは,特に相続人が多くいて,一部の方との間で対立が大きい・連絡が取れず話が進まないという場合には使われることがあります。こうしたケースでは家庭裁判所での遺産分割調停の手続きに至ることもあり,関心はなくかかわりを持ちたくない方などから相続分の譲渡を受けることで関与の負担が生じないようにする・相続分の集中を図って取得する財産を増やすという目的でなされることがあります。ここで言う相続分はプラスマイナスを含めて有している相続分ですので,プラスの財産のみに対するものではありません。法律上は相続人⇒第3者への譲渡を規定していますが,相続人間での譲渡も可能です。

 相続分の譲渡には譲渡する側と譲り受ける側の合意が必要ですが(譲渡合意書や登記手続き内は印鑑証明書も必要であり実印での押印を求められます),特に対価となるお金などを支払わない場合には実質は贈与と同じ形になります。そして,譲り受けた側は元から有していた相続分+譲り受けた相続分でもって遺産分割協議に臨むことができますので,何かしらの調整などが必要なのかが問題になります。一方で,相続分は特定の財産ではなくあくまでも遺産分割協議が整うまでの暫定的な共有関係の持ち分に過ぎないため,通常いうところの贈与と同様に考えられるのかという問題が出てきます。法律上遺産分割脅威は整うと相続開始時点から整った状況で財産を有していたことになるので,贈与があったという点と整合しないという問題も出てきます。

 

 こうした点が改正前の遺留分減殺請求の対象に相続分の譲渡が該当するのかどうかという形で問題となりました(最高裁平成30年10月19日判決)。このケースでは父親の相続について,母と子供二人を含む合計4人が相続人となり遺産分割が行われたところ,その前に母ともう一人から相続分の譲渡がこのうち一人にされていたというものです。このケースについて相続分の譲渡が遺留分侵害になるかが問題となったものです。結論から言えば,遺留分侵害の要因に相続分の譲渡は該当しうるという判断をしています。改正前の遺留分減殺請求についても遺留分侵害額請求であっても,生前贈与や遺贈等による遺留分の侵害に対する回復の請求を認めるものですので,現在も妥当します。要は相続分の譲渡が特別受益の対象になるべき「贈与」に該当し,遺留分侵害の原因になるのかどうかがここでの問題で,原因となるというのが判断内容になります。そこでは,先ほど触れた対立点について,相続分はマイナス部分を含むとは言えプラス部分への持ち分を持っており財産的な価値を持つものであり,譲渡を受けた持ち分も含めて持ち分を有するものとして遺産分割協議に臨めることや無償で譲り受ければ贈与と同等の意味を持つ点等が考慮されています。ただし,遺留分を侵害する可能性があるのはあくまでもプラス部分が生じているところだけですので,そもそもマイナス部分が大きければ侵害の原因となる贈与とはなりえませんので,先ほどの判断でもこうした場合は侵害の原因となる「贈与」には該当しないとしています。

 ここでの相続分は調整を行った後の相続分(法定相続分ではない)と一般的に考えられているため,この相続分の評価をどのように行うかは問題となります。ここの評価が行えないことには遺留分侵害がどの程度なされたのかがはっきりしないためです。実際にどのように計算を行っていくのかという点には煩雑な問題が存在します。算定が問題になる場合には専門家に相談するのも一つでしょう。

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