法律のいろは

大学院や留学など高等教育を受けるためのお金の支出は遺産分割の考慮対象(特別受益)になるのでしょうか?

2022年7月31日 更新 

 兄弟姉妹内で親から出してもらった学費に大きな差がある場合ケースなどでは,これらの学費などのお金が遺産分割の際の修正要素となるん度絵はないのかという点が問題になることがあります。遺産分割の際の修正要素として「特別受益」と呼ばれるものがあり,「生計の資本」を亡くなった方から出してもらった場合には相続人の公平を図るため,遺産分割でこの贈与部分を考慮するとされています。ただし,遺言などで調整不要とする意思を示すことができる(持ち戻し免除の意思表示)が可能とされており,特に遺言がない場合にこうした意思表明ありと判断していいのかを含めて問題となります。

 最近は大学進学の割合も高くはなっていますが,相続で問題となるのはかなり昔のケースもあり,その時点の事情や亡くなった方の属性や資産規模等によってその支出の持つ意味合いが異なってくる可能性があります。高等教育を受けるのが稀な時代であれば,高等教育の費用は公平の観点からは調整の対象となりやすくなりますし,亡くなった方が高学歴などであって,財産規模も大きな場合には高等教育を子供に受けさせることが「通常」のものとして,公平の観点から見ての調整の必要はなくなってくる可能性があります。扶養の範囲と評価できれば当然調整が必要とは言いにくくなりますし,例えば高校までの費用はそこまでの範囲とは相当に言いやすくはなっているかと思われます。

 

 こうした中で大学院の費用や海外への10年近くに及ぶ留学費用の負担が調整対象(特別受益)になるのかどうかなどが問題となった裁判例が比較的最近存在します(名古屋高裁令和1年5月15日決定判例時報2445号35頁)。このケースでは他にも調整対象になるのものが存在するのかなどの点や会社引継ぎに関わる株式の取得に関する遺産分割の方法等も争点となっていますが,ここでは省略します。

 大学院費用や留学費用について,このケースでは亡くなった方の生前の財産の状況や社会的地位等から見て,子どもに扶養義務の一部として高等教育を受けさせることが含まれるといえる場合には「特別受益」ではないと判断しています。このケースではこの枠組みにもとづき,亡くなった方の財産状況や社会的地位から見ての大学院などの費用の金額,その他支出や経済状況・他の相続人も相応のいわゆる難関大学と呼ばれるところに進学したこと・亡くなった方自身が大学院進学などに費用時間をかけることを許容する態度を示していたこと・返済を求めたことがないこと(その他,費用を出してもらった側による自主的な返還部分があること)等を考慮して判断しています。

 結論として,特別受益と言えないか・特別受益にあたっても調整不要という意思を示しているものと考えられるとして,調整不要という結論に至っています。特に公平の観点から見て調整が必要と言えるかどうかには,支出内容や金額が意味を持ちますが,他の相続人にも同様な支出がある場合や財産や支出規模から見てそう大きくなければ調整が扶養という判断には傾きやすいところです。これ尾を扶養義務の内容やその延長というのか・調整不要の意思を読み取りやすいとみるのかはありますが,このケースでは留学生活も相応に長期であること等高等教育でも通常と言える範囲を超えていると考える向きもありうるものです。ここを考慮して,亡くなった方の生前の態度等も考慮し調整不要の意思も読み取ることが可能(直接は特別受益を否定しつつも肯定されても,調整不要の意思が読み取れるから調整不要という結論は変わらないというもの)という判断をしているのではないかと思われます。

 

 このケースから直ちに大学院の費用や留学費用が当然に調整対象にならないとは言えないでしょうけれども,そもそも親がこれだけの支出ができる家庭の経済規模や収入はかなりのものと思われます。他の子どもにも相当な支出や学校に行かせている等の事情があれば,同様に調整不要となる可能性は十分あるものと思われます。結局,問題となる支出ができるだけの経済状態にないとこうした点は問題にはならないでしょうから,一般論としては一概に高等教育の費用が該当するとは言えないでしょうけれども,実際上問題になるケースでは特別受益として調整対象にならないこともあるでしょう。

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