法律のいろは

孫に対する贈与が遺留分侵害の原因その他遺産分割での調整要素(特別受益)になることはあるのでしょうか?

2022年8月1日 更新 

 孫は養子にする・子どもの方が先に亡くなり代襲相続ということがない限りは相続人にはなりません。そのため,生計の資本を贈与したから公平のために遺産分割で調整が必要になるかどうかという話(特別受益というものになるのかどうか)は基本的には対象にならなそうです。遺留分の侵害となる贈与も相続人に対する過去10年以内のもののは先ほど触れた「特別受益」になる場合には対象となります。これ以外の贈与は贈与した方と受け取った側が遺留分を侵害するだろうということを知っていない限りは過去1年分のみしか対象とならないので,相続人への贈与については「特別受益」に該当するかどうかが重要になってきます。

 孫については養子となって相続人になる場合には「特別受益」になるかどうか・ここに当てはまって遺留分侵害も問題になるのかは大きなポイントを持つ可能性があります。代襲相続という場合も,子供がなくなったことを原因として1世代飛ばしてはいるものの,相続人となることには変わりがないので,同様な問題が生じるのかは問題となりえます。

 

 比較的最近の裁判例(福岡高裁平成29年5月18日判決・判例タイムス1443号61頁)で問題となっていますので,触れていきます。このケースは平成30年法改正前の遺留分減殺請求を相続人の一人からその兄弟姉妹及びその子どもに対する亡くなった方(親)からの贈与を理由として求めたものです。このケースでは亡くなった方(親)の相続について,子どもは二人で,うち一人は親の相続開始前に亡くなっていたために,その子供(孫)が相続人になった(代襲相続)というものです。子どもの一人が孫に対して,残る一人への贈与や親への贈与(不動産の全てや持ち分・その他預貯金など)が遺留分の侵害となるとして裁判を起こしたものです。

 法改正前は登記の一部移転を求める等の内容でしたが,現在の遺留便侵害額請求ではお金の支払いを求めることに変わったものの,遺留分侵害になるのかどうかは同様に当てはまる話になります。

 このケース自体で争点は遺産の総額や遺留便侵害となるのかどうか・侵害になる場合の侵害となる金額など多岐にわたりますが,タイトルの部分について触れていきます。結論から言えば,一審では一部贈与がが特別受益になるとしつつ,遺留分の侵害計算で請求者の取得分を考えると遺留分侵害とはならないとのことで請求を認めていませんでしたが,2審の判断では一部侵害が発生するとして請求の一部を認めています。

 

 2審の判断のみ触れますと,贈与は先に亡くなった子供に対する贈与を孫が相続した場合に「特別受益」となるのかという点・孫自身への贈与が「特別受益」になるのかという点が問題となっています。このうち,前者についてはいくつかの考え方が分かれます。それは,孫は直接は贈与を受けていないのだから贈与の利益はないから「特別受益」とすべきではないという考え方・本来子どもが贈与を受けそれを孫は引き継いでいる以上は利益を受けているはずだから公平の観点から調整対象である「特別受益」とすべきという考え方に分かれます(他の考えもありますが,ここでは省略します)。孫は子どもを相続している以上は子どもの受けた利益を考慮しない理由はないこともあり,2審は「特別受益」として考慮するとしています。

 後者については,子どもが亡くなった後の贈与は「代襲相続」という形で相続人になっている以上は通常と同じく「特別受益」と考える点には問題はないでしょう。これに対し,子どもの生存時の贈与は相続人に対する贈与ではないので,本来相続人に対する生前贈与などを公平の観点から調整するための制度である「特別受益」には含まれにくいはずのものです。このケースでもここが問題となり,反対の考え方もあるところですが,判断では原則としては「特別受益」には含まれないものではあるが,相続分の前渡しと言えるだけの特別の事情があれば「特別受益」となると判断しています。

 したがって,原則は遺産分割での調整対象や相続人間の遺留分侵害の原因の一部となる「特別受益」には当てはまらない・例外と言える事情があれば当てはまるとしたうえで,このケースでは例外となる事情ありと判断しています。このケースでは先に亡くなった子供への贈与の過程などの事実認定を通じ,その子供への遺産の先渡しの一環として孫への贈与もさ慣れたといえるだけの事情があると判断しています。具体的な事情として,亡くなった親(被相続人)と親よりも先に亡くなった子供が一緒に生活していた建物と孫の住んでいた建物・それらの敷地となってい建物の所有名義のみ変更されていた(その子供と孫の名義への変更)・使用状況はそれまでと同じという点を遺産の先渡しの一環と評価しています。

 

 孫への生存贈与は代襲相続となる前には原則は調整対象にはならないという判断ですが,このケースと同様に住む家などを譲与することはありうるので実際には例外と言える事情があるケースも十分想定はされるところです。代襲相続は子どもが親よりも先に死亡し孫が相続人となる偶然の事情によるのに対し,相続税対策などのための孫養子は養子縁組という偶然とは言いにくい事情があるため,同様とは考えられない面もあろうかと思われます。この判断枠組みがここまでは及ばないように考えられますので注意が必要でしょう。

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