法律のいろは

亡くなった方が入居していた施設などが相続人がいない場合に財産を受け取ることは可能なのでしょうか?

2022年8月3日 更新 

 予め遺言でこれまでお世話になった介護施設などに財産を寄付する(遺贈する)等の定めをおくことは可能です。もちろん,施設側でそれを受けるかどうかという問題はありますが,問題がないのであれば遺留分の問題が出る可能性はありますが,施設側での受け取りは可能になります。税金の問題が出ることはあります。

 これに対し,遺言がない場合に,亡くなった方が入居していた施設等が財産を受け取ることは可能なのでしょうか?法定相続人がいる場合にはできないのが基本です。法律上当然に相続人が引き継ぐためです。もちろんそこから贈与を受けることも可能ですが,贈与税の問題がどうなるのかの確認は必要でしょう。相続人がいるケースでも全員が相続放棄をした場合には相続人がいないことになりますので,そもそも相続人がいないケースとともに,その施設などが「特別縁故者」というものにあたって財産の分与を受けることができるかが問題となってきます。

 

 「特別縁故者」自体は別のコラムで詳細を触れていますが,簡単に言えば,亡くなった方と生計を同じくしていた方(内縁の方など)や療養看護に尽くした方・その他特別な円弧の関係があった方からの申し立てがあり,家庭裁判所が相当と認めた場合に,遺産の分与を認める制度となっています。そのため,分与を受ける方の申し立ては必要ではあるものの,一定の関係にある方と言えるのかどうか・分与が相当と認めるかどうかは裁判所の判断次第(裁量が効くはなし)なります。相続座人がないことで行われる財産管理に基づく清算手続きが行われ,相続人がいれば申し出るようにという手続きが行われても申し出がない場合に,分与の手続きに移ります。

 内縁関係その他事実上の用紙以外に「療養看護」に特に務めたかどうかが問題となるタイプに,今回のタイトルにもある亡くなった方が生前入居していた施設や付添人などが含まれるかが問題となります。入居施設などは介護その他のサービス提供が無償によりなされるわけではない(保険制度の枠内であっても自己負担分が生じる)ため,費用に対応したサービスの範囲では特に「療養看護」に努めたので無償での財産の分与を相当とさせるわけではないという話が出てきます。そうなると,財産の分与を受けるには退会上の療養看護を尽くしたといえる事情が必要となるという話になっていきますが,裁判例上もそうした感がに基づく判断をしたものがあります。

 その一例として,名古屋高裁金沢支部平成28年11月18日決定・判例時報2342号41頁があります。このケースでは亡くなった方が入居していた施設を運営する社会福祉法人が「特別縁故者」にあたるとして財産の分与を求めたものです。1審で分与を認めなかったものが2審では分与を認めるに至ったものです。

 判断では,施設の職員が障がい等を抱えた亡くなった方との意思疎通に努め・日常生活の世話や娯楽へ参加できるようにした・体調悪化後の対応や亡くなった後の葬儀薬用を行った点を踏まえて,近親者の行うべき世話に匹敵すると述べています。こうした看護などがサービス対価を大きく超えた療養看護であると評価され,通常の社会福祉法人に期待されるレベルを超えたサービスであったから「特別縁故者」として分与を認めるのが相当であると判断しています。

 

 以上からも,対価の発生するサービスを提供する施設等が療養看護に特に務めたとして「特別縁故者」にあたるのは例外であり,同様のサービスを提供する主体に期待されるレベルを大きく超える(費用・対価から見た水準を超える)サービスを提供した場合に,分与を認められることがあるという話になります。そのため,遺産を確実に渡したいの出れば遺言を遺すことが可能であれば遺言を遺しておいた方が確実性は増すものと思われます。もちろん,御本人の意思疎通などが可能なレベルから見ると遺言を遺すことが難しい場合もありえます。その場合に,入居していた施設などが分与を受けるのは例外的な事情が必要である点は頭に入れておく必要があるでしょう。

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