法律のいろは

親の経営する会社での勤務や事業引継ぎ後に給与を支払ったことなどは遺産分割の際の「特別な寄与」になるのでしょうか?

2022年8月12日 更新 

 遺言書がない場合の相続における遺産分割ではスタート措定の法定相続分に修正をもたらす要素が法律上定められています。「寄与分」「特別受益」と評価されるものです。このほかに,そもそも遺産に含まれるのかどうか・相続開始前の使い込みの有無や相続開始後遺産分割までの使い込みをどう考えるのかという問題があります。いわゆる引き継いだ相続分で使い込み分の返還請求を求める・問題となる相続人以外の方の同意によって遺産分割時点に存在する扱いとして分割を進めるという対応も場合によりありえます。

 相続分の修正要素のうち,今回は「寄与分」の話について比較的最近の裁判例にも触れながら言及していきます。「寄与分」は実際上認められることはかなり稀であり,扶養義務を超えた貢献による財産の維持増大をもたらしたことが必要とされています。無償での貢献である必要があるため,何かしら贈与や便宜が存在したことへの対応(お返し)では該当しないのが基本です。

 

 親が営む事業を後継者として引継ぎ,引退後の親の給与(実際には稼働していない)を支払う場合に,他の世話と相まってこうした特別な寄与と言えるかが問題となってきます。ちなみに,事業引継ぎにあたり退職金を支払いその後も事業関与などが存在すると退職金とは税務上認められないリスクがあります。また,稼働実態がない場合にはこれだ贈与と捉えられ同じく税務上のリスクを負う可能性はありえます。

 それはともかく,事業引継ぎまでの勤務については勤務に対する給与を子ども・親ともに得ているので,そこに何かしらの貢献はないように思われます。これに対し,事業引継ぎ後にそうした給与再払いが無償による貢献と捉えられることは特に個人事業ではありえるでしょう。実際そうした給与支払いやその他身の回りの世話が「特別な寄与」にあたるかを含めて問題となった裁判例が比較的最近でも存在します(札幌高裁平成27年7月28日決定・判例タイムス1423号192頁)。このケースでは1審で特別な寄与を認めていた部分があったものを2審で覆し全く認めないという判断をしています。寄与分以外にも争点がありますが,ここでは省略します。このケースでは別に務めていた子どもの一人が親の依頼により親が経営する事業所へ移りその後運営を行い親の引退後は引き継いだというものです。

 このケースは引退までの稼働による貢献(親が運営に実際上関与していない)ことを前提に引退までを含めての貢献を主張したのに対し,引退までの経営者は親であることやそこでの給与は勤務対価として十分であることを根拠に引退までの特別な寄与を否定しています。要は子どもの取り分を大きく下げてでも親にお金を渡していたといえるのであれば特別な貢献と言いうるけれども,そこまで大きくは下げていないし親の取り分も経営者であることから理由があることを否定の根拠にしているようです。

 そのうえで,引退後については親に支払った給与の存在を証拠から見いだせない(このケースでは,その子供の所得税の申告書上は青色申告を行う方の専従者給与(同一生計の親族のうち,営む事業に従事する方に対し支払う給与などを必要経費に入れるもの)の支払いが計上はされていたと認定されています)ことが特別な寄与を否定する理由の一つとなっています。これは,現実の支払いが税務資料以外に基礎づけられている必要を示すものと思われます。この話についても,判決の認定が正しいの出れば,実際の稼働や支払いがないということになると税務上は実態と異なるということで後でリスクを負う可能性があります。

 

 先ほど触れたように,特別の貢献といえるだけの財産の増大を具体的に基礎づけることや対価性のない貢献であることを基礎づけることのハードルは思いのほか高く,実際上寄与分が認められることや少ない原因になっています。実際にどこまで争うのかはこうした点を見通して行う必要があるでしょう。

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