法律のいろは

生命法顕金が遺留分減殺請求や特別受益として遺産分割で考慮される場合とは?

2022年9月1日 更新 

 生命保険金は一部相続税の課税対象とはなりうるものの,遺産ではないために遺産分割の対象にはならない・原則として遺産分割での考慮や遺留分侵害額請求でも考慮されないという点で優れた相続対策の方法となりうるものです。ただし,裁判例の中には様々な事情を考慮してではありますが,遺産に占める保険金の割合が大半でなくても「特別受益」と呼ばれるものに該当するとしたものもあります。

 

 前提として,何が問題なのか整理をすると,生命保険金は受取人の指定をしている場合には受取人の財産なので遺産には含まれず遺産分割の対象とはなりません(公平の観点などから相続税の課税対象になる部分は出てきます)。また最高裁の判断(最高裁平成16年10月29日決定)により,原則としては「特別受益」には該当しないとされています。ここでいう「特別受益」は異なる2つの場面で問題となりえます。一つ目は,亡くなった方の財産で遺言を踏まえても遺産分割の対象となる財産が存在し,その遺産分割で遺産の前撮りという意味で調整を考える要素として「特別受益」というものが出てくる場面です。2つ目は,遺留分侵害額請求の場面で,遺留分の侵害となる贈与として「特別受益」が出てくるという場面(遺留分侵害を主張する側がもらっている部分は侵害にならない考慮要素となります)で出てきます。

 そのため,生命保険と遺言で全ての遺産を特定の方に相続させる(遺贈する)となっている場面でも,遺留分侵害があるかどうかという点で「特別受益」にあたる贈与があるかどうかは問題となってきます。ちなみに,遺産分割の場面では贈与の時期の制限はない(ただし,古い贈与をどうやって立証するかという問題はあります)のに対し,平成30年の法改正により遺留分侵害の場面では相続人同士の間では原則10年以内のものとなった点で一応の違いはあります。なお,「特別受益」が問題となるのはあくまでも相続人の間の話です。

 

 先ほど触れた最高裁の判断では,保険金受取人とされた相続人と他の相続人との間に到底是認できないほどの不公平が生じたと評価できる特別の事情がある場合は,生命保険金も「特別受益」となると判断しています。つまり,遺留分侵害額請求や遺産分割協議の出の考慮がありうるという話になります。ここで言う特別の事情の有無は個別のケースにより考えていくことになりますが,生命保険鐘の絶対額や遺産総額に対する割合・亡くなった方(保険料を出した方)と受取人となった相続人と他の相続人との関係・j各相続人の生活実態などを考慮していくとされています。一般に,保険金の絶対額や遺産総額(相続開始時点で存在していた金額)に対する割合が重要と考えられているようです。考慮事情は多くなりうるところですが,遺産に対する割合が60%から70%程度になると「特別受益」として考慮した裁判例が散見されることから,ここが一つの目安とはなりうるところです。保険金が低額の場合には問題がおっきにくいのが通常とは思われますが,保険金が1000万円を大きく超える場合には一応紛争リスクがどの程度なのかは考えておいた方がいいかもしれません。

 ただし,50%を少し下回る水準でも諸事情を考慮の上,「特別受益」に保険金が該当すると判断したケースもあります(東京地裁平成31年2月7日判決・LEXDB25559699)。このケースは事実関係を含めて争点が多岐にわたりますが,簡単に言えば,相続人の一部が生命保険金5000万円をもらい(相続開始時の遺産総額は1億1000万円あまり・その他生前贈与をもらっていることも含めて,遺留便侵害となる「特別受益」に該当するとして,別の相続人が遺留分「減殺」請求を行ったものです(改正前であるため,遺留分減殺請求ですが,基本的には現在の遺留分侵害額請求についても当てはまるかと思われます)。

 

 このケースでは,他に住宅取得資金等が「特別受益」にあたる贈与であるのかどうか(贈与の事実の有無を含め)争点となっていますが,判決文からは相当程度の生前贈与を認めています(認定ベースで保険金を除き1億円には達しています)。請求している側の相続人にも数百万円単位での生前贈与を認めていますが,この事実関係を踏まえて判断を行っています。そこでは,保険金額や遺産に対する割合(約45%程度)の他に,保険料が一時払い(要は一括で支払い)あれたことや生前贈与額の状況を踏まえて,相続人の間の公平を著しく愛する事情があるとして,保険金全額を「特別受益」にあたると判断しています。

 

 このケースでの考慮要素は当然に一般化できるものではありませんが,保険金以外の生前贈与などの状況(金額面を含め)も相当程度は考慮されるようです。50%を下回れば当然に大丈夫とも言えないので,生前贈与の金額面を含めた状況・遺言や保険金でのお金の配分の不均等の程度がどうなのか等をよく考えて対応を練る必要があるでしょう。

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