法律のいろは

相続における財産の基準時とは?

2022年9月5日 更新 

 相続というと,相続の対象となる方(親等,被相続人と呼ばれます)が亡くなった時点(相続開始時点)にあった財産を分ける・税金もここでかかるという印象がありますが,実際には微妙な違いが生じる部分が存在します。まず,遺言がある場合には遺言に従って相続開始時点にある財産が配分される(遺留分侵害額請求がある場合には期間内に別途行使)ことになります。これに対して,遺言がないあるいは全てを定めていないために遺産分割がなされる場合には相続開始時に存在した財産が必ずしも対象にはならない点に注意が必要です。

 あくまでも,遺産分割で分割対象となるのは遺産分割の話がつく時点までに存在する遺産であって,その評価額も遺産分割を行う時点になります。それでは,相続開始前に使い込まれた財産はどうなるのかと言えば,使い込みに対する賠償請求などができる場合には相続分に応じた請求を各相続人が行うことになります。相続開始後であって遺産分割を行うまでの時点のものは,平成30年の法改正によって使い込むなどした相続人以外の相続人が全員同意をすれば,例外的に遺産分割の対象となり使い込まれるなどした財産はその行為を行った相続人が既に取得した扱いになります。

 

 そして,面倒なのは遺産分割を行う際には法定相続分からの修正などを考慮して実際に配分する割合を決めますが,そこで考慮される財産の評価額は相続開始時点での評価額になります。相続開始後すぐに遺産分割を行う場合にはこの評価額が大きく異なることは考えにくいですが,時間が経過し価格変動が大きければ話が異なります。実際の遺産分割の場面での取り分を決めるにあたっては遺産分割の時点での評価額によることになります。

 

 こうした財産を分割清算するうえでの基準時点と異なるのは相続税についての基準時点です。相続税は課税対象となる財産(遺産とは異なる部分が存在します)で多くは相続開始時点に存在したものが対象となります。ここで問題となるのは「存在したもの」の範囲で,名義は別の方の財産であっても実際には亡くなった方の財産と評価できるものは「存在した」ものとして扱われます。このことは遺産分割の話にも影響を及ぼす可能性はありますが,遺産に属するのかという話と贈与などによって取得した財産で調整を行う対象になるのかという話等問題はケースによって異なります。ただ,特に夫婦間では裁判例の傾向として,名義財産について名義や管理運用を誰が行ったかは必ずしも重視されず(任せての運用などがありうるため),誰が原資を出しているのか・運用管理をした収益を誰が取得しているのか,さらには使っているのか・管理運用などの経緯等が考慮されると判断されています(実際にどうかは個別ケースごとに当てはめて考えていくことになります)。管理運用収益を自ら使っていれば,他の事情によっては既に贈与がされているため相続時には存在しない財産として考えることになります。この場合には税務的には贈与税の話が出てくるのかどうかという話になり,遺産分割の話が出てくるのであれば調整対象になるのかどうか(仮になるとしてその対象から外されるのかどうか)が問題となってくるでしょう。

 ちなみに,相続税の課税申告書の記載内容(誰がどの財産を取得したのか)は,そうした遺産分割の合意をしたことを示す資料の一つにはなりますが,合意書そのものではないのでこのことをもって当然に合意が成立したとまでは言えない点には注意が必要です。

 

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