法律のいろは

遺留分の放棄の許可を求めるにあたって,代償は不可欠なのでしょうか?

2022年9月20日 更新 

 相続の事前対策の中で遺留分侵害が生じるのかどうかは問題になりうる点の一つです。遺留分侵害をしてもお金での調整へと法改正により変更にはなりましたが,事前に対応ができるのであれば対応をしておく(保険の活用などもありえます)のは重要なものの一つです。中小企業での対策には相続人全員の同意によって対象から外す・金額を固定するというものもありますが,一般的なものに家庭裁判所の許可を得て予め遺留分の放棄をしておくというものが存在します。

 

 放棄を申し立てるのは,遺留分を持つことになる相続人になるので,相続対策をする側にとってはその同意を取り付ける必要があります。その際には何かしらの見返りなどが必要になることもありますし,申し立てをしてもらうにも不許可を受けないように注意をする必要があります。許可にあたっては,申し立てが真意に基づくものであることや相続に関する法律の規制に沿った合理性がある(法定相続分制度の趣旨に反する不合理な結果が存在しない)ことが必要になります。このことと代償の関係が何であるのか・真意を確保する,合理性とは何かが問題とはなってきます。

 真意に出たものであるかどうかとは,遺留分の放棄とは何か・その意味するところはなんであるのかという理解がなされたものであること,放棄の許可の申し立てが誰かによる強制によるものでないことは必要です。実際,申し立てをした際に申し立てをした経緯を含めて家庭裁判所の側から確認を受けることになります。許可をするかどうかにあたっては調査がなされることになります。

 

 合理性を基礎づけるものは何か・代償の有無がどうかが許可にあたってどうかが問題になります。参考になる裁判例として東京高裁平成15年7月2日決定家庭裁判月報56巻2号136頁・LEXDB28090364があります。このケースでは,1審で相当額の代償を渡す話がないから不許可であると判断したものを覆した判断になります。

 このケースは簡単には親の離婚後交流のなかった側(片方の親が被相続人)の相続について,子供が遺留分の事前放棄を申し立てたものです。調停に至る前に親同士の間で別件の調停が存在しその際にお互いの相続に関し遺留分の話はしないようにしようという合意がなされたという事情がありました。申立の際の調査で強制がない申し立てであり,遺留分放棄の意味が分かっているとの回答がなされているものの,何かしらの代償は得ていないケースでした。

 2審では,1審の判断とは異なり,真意に基づく放棄の申し立てがなされたこと・相続に関する法規制に沿った合理性を否定する(法定相続分制度の趣旨を否定する)特別の事情が存在しない限りは放棄を許可すべきであるとして,許可の判断を出しています。このケースでは放棄の申し立てをするに至った事情,親子関係の交流をしないことからの放棄・親同士の別件の紛争解決の中で相互に遺留分の主張をしないことが話の早期解決につながった点などの考慮から不合理な事情はないと判断をしています。

 

 以上から,代償を支払ったかどうかは遺留分放棄の許可を受けるための必須のハードルとは言えません。申し立てに至る経緯などから不合理な事情があるのかどうか・申し立てが真意に出たものと評価していいのかどうかは事実関係が確認はされます。その中の事情いかんあるいは放棄に同意を得るための話し合いの中で何かしらの代償を与えるということはありうる話ではないかと思われます。その内容はケースごとに違ってくる(先ほど挙げた裁判例のようなお互い遺留分を主張しないという約束のようなものなどありえます)でしょうけれども,申し立てをしてもらえば当然許可とまでは言えないと思われます。特に真意の基づく申立が疑義を持たれる可能性のある事項(相続対象となる方からの強い働きかけでやむを得ずというケース等)には不許可リスクがありうる点には注意が必要でしょう。

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