遺言の有効性が問題になるものとして,自分で書いたのかどうか・判断能力があったのかどうか・口で伝えるということができたのかなど形式面や前提面で有効性が問題になるここはよくあります。この問題を含め,遺言で書かれた内容が遺言としての意味を持たないがために遺言として有効性が問題となることがあります。これらの詳細は別のコラムで触れています。これ以外に遺言の内容が公序良俗に違反するため無効になるかが問題となることがあります。その一つのケースが,いわゆる結婚をしながら交際をしていた相手(不倫相手)へ財産を渡す内容を含む遺言になります。
公序良俗違反となる遺言が無効になることは間違いないのですが,問題は何がここに該当するかという話です。問題となりうる事柄は今回取り上げるものに限りませんが,代表例の一つということで触れていきます。いわゆる不倫をした側からの離婚請求には判例上高いハードルが存在し,様々な事情から離婚はできない状況で遺言によって交際相手・不倫相手に何かしらの財産を残すということを考える場面は出てくるかもしれません。
一概に遺言内容が公序良俗に違反しているとは言えないことから,経緯や記載内容元となる財産など様々な事情を考慮して,記載されている内容が公序良俗に違反しているかどうかを考えていくことになるでしょう。裁判例の中でも東京地裁昭和63年11月14日判決判例タイムス735号188頁では判決文を前提にすると次のような事実関係のもと遺言の内容が公序良俗の為に無効と判断しています。このケースでは,長く不倫関係が存在し,遺言で不倫相手に遺贈させることとされた財産の主要なものである建物が配偶者が居住している生活維持のための財産であったこと・遺言内容が全財産を不倫相手に遺贈するというものであったこと・遺言の作成時期が離婚に関する手続きで慰謝料・財産分与などの支払いをすることが見えてきた段階で作成されたこと等を考慮しています。
作成に至る経緯や主要な遺産の内容と配偶者の生活への影響(生活基盤への影響の程度)・遺産を渡す内容等が考慮されています。この考慮要素での事情いかんによっては,以下に長年世話になった不倫相手への感謝を示す・今後を保障する意思があったとしても無効になる可能性があることを示しています。ちなみに,このケースでは遺言以外に生前にこれまで世話になった費用の支払のために不動産の権利を譲渡することの有効性も問題となっています。今述べたのと同様の理由から無効と判断されています。
このように様々な事情を考慮するものであるために,不倫相手に遺言で財産を渡す内容を含むことが常に公序良俗に違反するから無効ということにはなりません。最高裁昭和61年11月20日判決民集40・7・1167)のケースでは,不倫相手・配偶者・子供に各1/3ずつの割合で財産を残すという概要の遺言は公序良俗に違反しないと判断しています。このケースでは,配分の内容や既に遺言書作成の時期に婚姻関係の実態が希薄化していたこと等を考慮して,配偶者や子供の生活の基盤を脅かすものではなく,不倫相手に日々の世話を依存していた遺言をした方の生活基盤の維持を目的としているから無効ではないとされています。
作成時の状況や経緯・配偶者などの生活への影響の程度や内容が考慮されているという点では上にあげた裁判例と同じものではないかと思われます。古い判例には不倫関係の維持を目的とした遺贈を無効とするものがあります。不倫相手と一緒に長く生活している場合には,相手への感謝等の要素はあるところかもしれませんが,考慮要素は様々ありうるところです。離婚をめぐる争いなどがある中での遺言書の作成にはうえで上げた点からリスクがあると思われますし,内容や配偶者への影響の程度と内容は考慮すべきではないかと思われます。結局は紛争の激化などを招くだけであるとも考えられるからです。
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