法律のいろは

限定承認をした場合にかかる所得税とその意味とは?

2022年10月5日 更新 

 相続があった場合には相続税の問題は出てきますが,亡くなった方が商売を営み場合には消費税の場合もありますし,これを含めて収入があれば「準確定申告」と呼ばれる所得税を含めた税金の申告が必要になります。ここに詳しくは立ち入りませんが,相続や遺言での遺贈によって引き継いだ財産関係について一定期間(税金関係とは期間が異なります)

 

 負債が多い・引き継ぐ財産面での問題がある場合には相続放棄を選ぶ場合が多いと思われますが,期間制限以外に亡くなった方の賃貸借契約の解除を行う・遺産を勝手に使ってしまう場合には相続放棄ができない(すべて引き継ぐという単純承認扱いとなる場合)ことが問題になることがあります。一定の範囲で引継ぎその範囲で亡くなった方の負債も引き継ぐ制度として限定承認の制度があります。この制度は引き継ぐ負債の清算の手続きの煩雑さや今回触れる所得税の課税(譲渡所得のみなしようと課税と呼ばれるもの)もあり,あまり活用されていません。

 

 ここで言うみなし譲渡課税とは何かといえば,財産を譲渡した場合には保有していた期間の価値上昇分について税対象となるという制度の例外に当たるという意味です。通常は有償で譲渡すれば,そこに価値上昇分は反映されるのでそこに税金がかかる(控除される項目などの話は割愛します)のが原則です。相続や遺贈の場合には無償でもらうため(負担付きの遺贈は含まれません),本来値上がり益がもらう際に反映されていないので税金がかからないはずである点をあるものとみなして税金がかかるようにするというのがこの制度になります。

 なぜわざわざこのような制度が存在するのかについては裁判例(東京地裁平成13年2月27日判決LEXDB28070355)で示されています。ちなみに,みなし譲渡課税の趣旨は株式の評価(厳密には財産評価基本通達を所得税基本通達が準用する記載等)等が争点となった最高裁令和2年3月24日判決でのべられています。

 判決の認定した事実からは,相続に関して相続人が限定承認はしたけれども納税申告をせずにいたところ,ペナルテイを含めた納税を求める決定(所得税や相続税は納税者側から税額その他の申告が必要。ない場合には行政側から税額などの決定を受ける仕組みです、この場合には加算税などのペナルテイがつきます)を受けたことについて取り消しを求めたものです。このケースでは,納税者(相続人)サイドから,法律上すべて引き継ぐことになる事情があったから限定承認はできない⇒課税処分はその前提を欠くから取り消されるべきものだ,という主張があり,そうした事情があったのかどうかなどが問題になったものです。厳密には,先ほどの主張に加えて,譲渡した場合の所得はゼロ円だからという点もありますが,細かいので省略します。

 

 このケースでは相続における限定承認を行った際の「みなし譲渡課税」の趣旨が何であるのかも争いにはなっており,そのために裁判所が判断を示しています。ちなみに,判断の結論では法律上当然に引き継ぐ事情(このケースでは相続人による遺産の私的利用)はないものと判断されるとして,納税者の請求を退けています。

 判断では,「みなし譲渡課税」を行う理由として,限定承認の趣旨を尊重して相続人の負担を限定しつつ,亡くなった方の下で発生した値上がり部分についての税金負担を負債の一つとして限定承認の清算の中で行うためであるとしています。分かりにくいので捕捉すると,本来の譲渡課税となると,相続人が引き継いだ財産を譲渡する際に,亡くなった方の下での値上がり分を含めて(購入価格等は引き継ぎますが)税金が発生することになります。限定承認の制度では引き継いだ範囲内での負債負担(税金も一種の負債です)を負う制度でありますが,この値上がり状況などによってはその範囲を超えての税金負担が生じかねないので,それを避けるために限定承認による清算の段階で税金分も清算するという制度となっています。この税金分も含めて負債の支払い義務を相続人は引き継いだ財産を超えては負担を負わないことになります。

 一般的にもこの制度は上記の通り理解されています。ちなみに,このケースで相続人側が主張した遺産の私的な利用とは,遺産の隠匿やワザと財産目録から一部でも遺産を載せない行為と同じく,限定承認や相続放棄の手続き後であっても,行ったことが判明すれば,限定承認や相続放棄の効力がなくなるとされるものです。いずれも債権者への背信行為とされるものを対象としています。

 

 いずれにしても,納税申告を行わないことでペナルテイを受けると結局負担が重くなりかねません。限定承認を行うかどうかの判断の際にはこうした手続きも忘れずにおきたいものです。

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