法律のいろは

遺言が相次いで作成された場合の有効性の問題と記載の解釈(比較的最近問題になった裁判例の紹介)

2022年11月3日 更新 

 法律上遺言は整合しない内容であれば後で作成されたものが優先し,前のものは仮に公正証書遺言であっても撤回したものとして扱われます。そのため,特に近い時期に矛盾する内容の遺言書が作成された場合にはその有効性が問題となることがあります。自分で書く自筆証書遺言では書かれた内容の意味が何なのか・意味内容の面から見て意味を持たないのではないのか・そもそも矛盾する内容なのかなどが問題になるケースもありえます。

 そのため,遺言を後で書き換える場合には,判断能力面で病状などがどうか・変更内容が疑問が出ないモノかどうか・書き換えに至った経緯が説明できるものなのかどうかには注意をしておく必要があります。自分で書く自筆証書遺言では体裁面で字の乱れなどが大きい・そもそも本人以外の方が書いたのではないかが疑われるかどうか(筆跡・自分で書きにくい場合に手を添える行為も裁判例上有効性に問題が示されています)等の点も同様です。

 

 こうした問題点が事後的に争われた裁判例やその分析は存在するところです。当事務所のコラムの中でもいくつかの裁判例などを取り上げています。そうした中比較的最近の裁判例(神戸地裁令和1年10月24日判決・家庭の法と裁判40号104ページ)を紹介します。詳細は前記の掲載雑誌に書かれていますが,簡単に言えば財産全てを別々の遺贈するという趣旨の遺言を同じ日に公正証書遺言・後に自筆証書遺言で作成したというものです。こうした事実関係では,ある遺言に沿って名義変更などを行うと後で別の遺言に基づき撤回されたから直すように請求をするなどでの紛争がありうるところで,実際にこのケースでの紛争もこうしたもののようです。特に,全ての遺産の遺贈先が異なるということになると,後の遺言が有効施あるとなると最初の遺言(このケースでは公正証書遺言)は撤回されたことになるので,遺言の有効性は大きく問題になりうるところですし,実際に争点となっています。

 判決文からは大きな争点は,病気などの状況から見ての判断能力の有無(後の遺言作成時)・関連して自筆で書かれたものかどうか(押印についても)・遺言の記載内容の解釈です。3つ目の解釈は自筆証書遺言の記載内容が「いとこの〇〇に遺贈する」という趣旨の記載がある一方「〇〇」という方は実際はいとこの父(おじ)であるので,いとこに遺贈するのか・おじに遺贈するのかという点が問題になります。このケースでは,おじの「〇〇」という方は遺言をした方の死亡時には既に死亡をしているため,法律上原則先に亡くなった方に遺贈はできないため,遺贈相手の解釈によっては遺言の内容が無効となってしまうため問題となっています。

 

 このケースでは同じ日に遺言作成をしているので,最初の公正証書遺言作成を有効だと前提とすると相当の事情がない限り判断能力面での問題は生じにくいように思われます。特に公正証書遺言では公証人の方も事前に確認を行い証人2人が立ち会っているためなおさらです。実際に判決では経緯について詳しく事実認定を行っています。自ら書いたのかどうかは筆跡や体裁を見ればわかること・裁判例で考慮されている変更の経緯は同じ日にわざわざ整合しない遺言をするにはそれなりの経緯が存在するため,このケースでどうであったのか事実認定されています。その経緯の中で自ら遺言を作成したのかどうか・添え手があったのかどうか(このケースでの認定では水あらペンをとりかつ添えてはないとされています)を認定しています。

 このケースではこのほかに,遺贈の相手が誰と解釈できるのかも判断されています。裁判例の流れとしては遺言書の文言だけでなく前後の経緯などから見て可能な限りせっかくの遺言なのだからということで真意を事後的に探究し,有効となるように解釈が可能であればそのように解釈される傾向にあるようです。ここについては文言だけでは無効の可能性もあるところですが,前記の遺言を変更した経緯を大きく考慮しています。このケースでは遺言変更の理由として真に遺贈したいのは「△△に住むいとこの〇〇」だからだという事実を認定しています。そのうえで,それまでの交流経緯から名前の記憶違いということができるとして,実際には従妹である人物へ遺贈する意味と解釈して有効と判断しています。

 

 遺言の内容で疑義が出た場合には,直に裁判になるケースでは裁判所による事後的な検証を様々な事実関係から行っていく(判断していく)ことになります。この場合に実際はどういう結論になるのかは事前に必ずしも予測がつきにくい点は頭に入れておく必要があります。

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