法律のいろは

相続放棄の申述が無効とされる場合とは?

2022年12月27日 更新 

 相続放棄は家庭裁判所に対する申述受理の申し立てによって行います。ここで相続放棄の意思が真意に出たものかどうか・法律上の当然引継ぎの要件を見すのかどうかの審理がなされます。ただ,相続放棄の申述はあくまでも,家庭裁判所による申述がなされたことの一応の公の判断とされているだけで,相続放棄の申述受理の有効か無効かは別途争う余地が残ります。このこともあって,明確に却下すべき場合を除き受理するという心理をすべきという裁判例(詳細は別コラム参照)も存在します。そのため,別の民事裁判や遺産分割手続きで争う余地は残ります。

 相続放棄をした場合には,相続開始の時点から相続人ではないことになりますから,遺産分割協議に参加することはできなくなります。家庭裁判所での遺産分割調停での手続きでは遺産分割調停の当事者となる資格を持たない相続人を裁判所に判断で排除する手続きが存在します。相続放棄をしたことが明らかな方については相続人でない以上当事者ではないので調停の手続きから排除されることになります。仮に相続放棄が無効なのであれば,この判断に対して相続方が無効だからなお相続人であるのだということで争うことになります。

 

 遺産分割調停の中で裁判所から相続放棄の申述受理を理由に当事者から排除された決定を争い,相続放棄の申述が無効であると判断した裁判例として,東京高裁平成27年2月9日決定・判例タイムス1427号37頁が存在します。このケースでは,相続放棄の申述を行った際に,その相続人が重度の認知症であったこと・後に成年後見の申し立てのための医師への話の中で相続放棄の申述をした覚えがないと述べたこと(相続放棄の申述をしたことの自覚がない)・相続放棄の申述当時の経済状況を把握できた状況とは言えず相続放棄の申述を行う央利的な理由がないこと等を理由としています。他には,調停時の裁判所の判断の連絡はその方の法定代理人に連絡すべきなのにしていない(調停での判断に関する手続き上の問題点)もあげられています。

 ここでの無効理由は大きくは,相続放棄の申述がまともに判断ができない状況であるため,真意に出たものとは言えないこと・判断能力がないために燈に一応真意としても無効ではないかという点を言うものと思われます。

 

 裁判所の判断は事実関係を詳細に認定し,相続放棄の申述をしたころのその方の長谷川式簡易知能評価スケールの点数や知能指数の状況・医師の診断書の内容や意思の進だ印時の記録(その方の生活状況や相続放棄の申述をしたのを認識しているのかどうかなどの記載を含む)・成年後見開始手続きの申し立てや開始をされたこと等を踏まえています。そのうえで,相続放棄を自覚していないにもかかわらず申述していることや経済的にみて安定がなく,相続放棄のの申述を行うだけの理由がないことを踏まえて,真意に基づき申述を行うだけの状況ではなかったと述べて,無効であると判断しています。

 このケースのように,体調や判断能力面での問題がある中で,周りに親族がいるにもかかわらず,相続放棄の申述がなされそのまま手続きが進んでしまうことはあまりない(というか相当まれ)なものではないかと思われます。親族が周りにいる・時々連絡を取っていれば,通常は気づくためです。とはいえ,遺産分割調停に関連する手続きを含め,相続放棄を行った際の要件(当然引継ぎとみなされる事由・期間制限・真意に基づくものといえるのか)に大きな疑義がある場合には,争いや確定的な判断が出てくることがありうる点に注意が必要です。

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