法律のいろは

相続や遺産分割の際に「貸金庫」に預けている物品の管理はどう扱われるでしょうか?

2023年1月8日 更新 

 銀行や信用金庫で提供しているサービスで「貸金庫」という金庫の一部を使った,サービス提供があります。この「貸金庫」はそこに保管した物品(いわゆる金目のものなど)を施錠し管理するものです。貴重品などを預かるのではなく,保管場所を提供するサービスと考えられています。有料なので,賃貸借契約とするのが判例の理解(最高裁平成11年29日判決民集53・8・1926)になります。貸金庫を利用している方が亡くなった場合に,金融機関と契約している借主の地位や保管している物品も相続や遺産分割の対象となります。

 

 一般に,貸金庫の利用権は,相続人全員に引き継がれることになります。貸金庫の中身を誰かが取得するにしても,実際に取得するには貸金庫を開けないと意味がないので,この開ける権限の話を解決しておく必要があります。相続人全員に利用権が引き継がれるので,開けるには全員の同意が何もない場合必要となります。このこともあって,貸金庫のサービスを提供している金融機関は相続人全員の同意や立ち会い(前提として戸籍関係資料による相続人の確認も要求されます。こちらは金融機関の口座の名義変更なども同じです)を要求されます。遺産分割協議で貸金庫の中身である財産(こちらが判明している場合もあればない場合もありえます)だけではなく,開ける権限の問題(具体的に誰がそこまでの権限を取得したのか)をはっきりと解決しておく必要があります。

 中身がわかっている場合には,開けることを含めた合意を書面で取っておくこと(実印で押印し,印鑑証明書も必要)になります。遺産分割調停であれば,その旨で調停条項を成立させることになります。中身が分からない場合は,裁判所外での話し合いのときは,中身を点検するための公正証書(事実実験公正証書というもの)を作成し,相続人の嘱託を受けた公証人が貸金庫を開けて中身を確認して結果を記録するという方法(嘱託をした相続人が記録が正確であることを確認する)もありえます。金融機関が同意をする必要がありますが,実際上は承諾する運用であるといわれています。

 調停の場合は,貸金庫を開けることと中身の保管について中間合意をとっておく(委任状などの取り付けも必要)こともありえます。この場合は,相続人全員の同意が必要となり,難しい場合は別の方法の検討(この場合は裁判所サイドも)が必要になります。

 

 そもそも,遺言で貸金庫の利用・開ける権限とともに中身を誰か特定の方に取得させることを決めている場合には,その方に取得させることや開ける権限を設定しておくことになります。遺言執行者の指定を行う場合には,遺言執行者の権限として貸金庫の開披権限も設定しておくことになりますが,特に公正証書遺言での遺言執行者(取得を受ける方の場合も多い傾向があります)の権限の定型文言として,貸金庫の開披権限などが設けられるように思われます。そのため,遺言執行者の権限の文言だけから当然に貸金庫が存在するかどうかは必ずしも明らかではありません。

 貸金庫の中身の財産や利用権の取得が明確になっていない場合には問題が生じる可能性があります。裁判例の中には他の財産で明示されていない「その他財産は〇〇〇〇が取得」するという項目の中身に,これらの取得が含まれていると判断したものも存在します。金融機関側の確認などに余計な時間がかかることもあるので,安全策をとるのであれば,明確にしておいた方が無難でしょう。

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