法律のいろは

相続放棄をした配偶者は亡くなった方の所有する建物にしばらく住むことは可能でしょうか?

2023年1月16日 更新 

 相続放棄をすると,最初から相続人でなかったことになりますので,遺産分割に加わることはできません。また,遺産を勝手に処分するとそもそも相続放棄ができないことになるため,相続放棄をしたケースでは配偶者といっても遺産を直接相続の手続きの中で亡くなった方の所有する建物を取得することはできないことになります。こちらは,当面の居住権を遺産分割協議の中で取得することになる「長期配偶者居住権」といったところについても当てはまることになります。

 

 相続放棄することになる経緯は様々あり得ますが,仮に亡くなった方に多くの負債が存在する場合には,所有する建物もいずれは売却などで人手に渡る可能性が高いと思われます。そのため,長く住むことは難しいかと思われますが,当面その家に住むことが可能なのかという点が問題になります。購入した方がしばらく住んでいいというのであれば問題はありません。当面の居住を可能とする根拠としては亡くなった方が当面無償で住んでいいという了解があったという判例でも出てきた考え方もありうるところですが,平成30年の法改正で設けられた「短期配偶者居住権」の保護を受けることも可能です。

 「短期配偶者居住権」とは,平成30年の法改正で設けられた制度で,亡くなった方の配偶者が,亡くなった方が所有する建物に無償で生前から住んでいる場合に,原則として遺産分割協議が終わるまではそこを使うことができる(住むことができる)という制度です。「長期配偶者居住権」との違いは,期間もありますが,「短期配偶者居住権」は無償で貸す場合と似たような制度で使う以外の用途には用いることができないという点があります。この制度を使うことができない配偶者は内縁の場合・相続廃除の審判を受けた配偶者・相続欠格に法律上当たる配偶者です。これに対して,相続放棄をした配偶者は法律上使うことができる対象から外されていませんので,この制度の恩恵を受けることは可能です。

 

 これに対して,相続放棄の経緯によっては亡くなった方に負債があり,建物の権利を遺産分割で取得した方から,当面(あるいは家で生活できる限り)無償で住むことの了解を得ることもありえます。この場合,無償で住むという合意自体は合意をしたご本人同士でしか意味を持ちません。そのため,もし遺産分割で取得した方が別の方に売却をするとその方には合意があったという話を言っても意味がないことになります。ただ,御本人同士の間では利用期間を定めてはいないものの,その家で生活をできることを目的として同意をしたと考えることが十分可能です。他の場所での生活の目途がない場合には相当長期の生活を目的としたことになって,簡単に利用する権限を遺産分割で取得した側も奪うことができなくなります。法律上は,何の目的も定めず使わせている場合には,終了を通知すればそれで利用権はなくなりますが,ここではおそらく口頭での約束によるものが多いものと思われます。一般に生活を目的としていることになりそうであるという点がその理由です。したがって,この場合には相当程度長い期間住むことができる可能性が出てきます。

 こうした話以外にそもそも当面は遺産分割をせずに事実上配偶者の方が生活できるようにすることも相続放棄の場合には可能です。この場合に先ほど挙げた権利が存在する前提になるものと思われます。

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