法律のいろは

遺産に含まれる財産の売買契約を解除したことは,相続税の課税に影響するのでしょうか?(裁判例の紹介)

2023年1月30日 更新 

 ある方が遺産に含まれる特に土地を売却し,その後亡くなった場合に,相続税が課税されるのは,相続税法の規定する課税対象財産になります。農地のように権利移転に許可が必要で,許可とともにお金の支払いと引き渡しを行う場合に,許可前に相続が発生した場合の相続税の課税がされるのは何かは,その評価額が大きく異なる可能性もあるため,裁判例上問題になったものが存在します。

 こちらは,最高裁の判例も存在し(最高裁昭和61年12月5日判決)ます。先ほどの問題は許可と代金支払いまでは不動産の権利は売り主に残っているのが権利関係であるため,代金と相続税の評価額は異なるとかかる税金が大きく異なるため,課税対象財産は別に考えられるのかという話が問題になっています。結論から言えば,判決では代金の未払い分の請求権(相続発生時の未払い額)であるとしています。田金の支払い確保のための権利を残しているのすぎないからという理由です。同様に買主側に相続が発生したものについても最高裁の判断が存在し(先ほど挙げたのと同一日時の別の判決),簡単に言えば不動産の引き渡し請求を求める権利が課税対象でその評価額は売買による取得価格と判断しています。

 

 これとは別に比較的最近(東京地裁令和2年10月29日判決・東京高裁令和3年7月14日判決)で,相続開始後(売主について相続が発生)にその相続人が買主と売買契約を相続開始前に合意解除したという確認書を取り交わし,その後その土地を遺産・相続税が課税される財産として相続税の申告をしたことについて,判断されたものがあります。税務当局から,課税刺さるのはその土地ではなく売買の際の代金額であるとして処分(ここでは「仮装・隠ぺい行為」への重加算税も含まれますが,以下ではこの話は省略します)がなされたというものです。この処分が適法か否か・課税される財産は土地かどうかが争点となっています。

 法律上解除については遡って契約の効力を失わせるという意味を持つ一方で課税される財産は基本的には相続が発生した際に,遺産に含まれる財産になります。遡りの効力を前提にするならば,土地が課税対象になるはずですが,裁判所の判断ではこの遡りを相続税法上は認めないと判断しています。ちなみに,合意解除(買主と売り主の合意で契約をなかったことにする)をしたのが売主かその相続人かという事実面での問題がありますが,判決の事実認定では相続人とされているようです。このケースでは農地の売買の用で許可が下りる前に相続が生じ,一応手付金支払いとともに仮登記がなされ,仮登記は相続開始前に抹消の理由が生じたとして抹消されています。

 

 民事上の解除のルールと相続税法上の話が異なる理由として判決は,原則は契約関係のルールに沿って課税は行う・例外的に税金軽減目的の恣意的な解除を防止する必要があるとして,税務上の手続きのルールを参考にした判断を行っています。ここでの税務上の手続き上のルールは一度税務申告をした後に,法律上の申告期限5年経過後に生じた一定の法令で認められた理由を原因として課税を見直してもらう制度(後発的な理由に基づく更正の請求という制度)を参考にしたものです。ここでは,後から生じた理由について「やむを得ない事情があるのか」という理由を要求する部分が存在し,ここでの「やむを得ない事情がある」場合に相続税法の課税に関しても影響を及ぼすと判断しています。

 この判断枠組みに沿って,売主相続人が買主側と合意解除したことについて,相違ないといけないだけの事情(やむを得ない事情)があったかどうかを検討の上,そうした事情はないと判断しています。このケースでは判決の事実認定では別に再度相続人が当初の契約と同じ契約を締結しようとしていたことなどを述べています。結論は納税者側の請求を退けています。

 同様の判断枠組みを述べた裁判例はほかにもありますが,合意解除(話あいゆえに恣意的な可能性は出てくる場合もあります)であっても「やむを得ない事情」を認めたものも存在します。税務の手続きルールから民事上は有効に解除されたものを異なったように考える理由はよく分かりませんし,批判的な評釈も存在するようです。ただ,実際と異なる事実関係をつくる場合には否定されるリスクや場合によっては犯罪になる可能性もありうるところなので注意は必要なように思われます。

 

 仮に,この枠組みを前提とする場合には,ここで解除を行うだけの事情(相手が支払いをしない・事情変更といえるだけの事情とその根拠がしっかりしている)のかどうかをきちんとチェックしておく必要があるものと考えられます。

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。