法律のいろは

遺産分割協議で合意をする際にはよく注意を。一度合意をすると後で覆すハードルは高いです。

2023年3月13日 更新 

 相続の際に,仮に遺言書が存在していても別に遺産分割協議をすること自体は法律上一応は可能です。分割をするかどうかを曖昧にしたままでは手続きができないものもあるので,遺産分割協議書を作成する必要がある場面は出てきます。問題は一度合意して書類を作成した場合に,やり直しがどこまでできるのかという点です。このハードルが高い場合には,安易に合意をすると後の取り返しがつきにくくなります。

 

 結論から言えば,タイトルにあるように,一度合意をしたものについてやり直しをするハードルは高くなります。相続人全員が合意をしてやり直す(前の遺産分割協議を解除する)こと自体は裁判例上排除されていません。もっとも,特に税務面で有利にしたいがためのやり直しは裁判例の中には合意の効力はともかく,有利な変更を求める手続き(更正の請求)を認める理由がないと判断したものが存在します。特定の形に有利になりすぎるのではないかということでやり直しを求める場合には,有利になる側はやり直しには応じないことも多いでしょうから,その場合にやり直しを求められる理由はどの程度あるのでしょうか?

 一度合意をしたことを一方的に簡単に靴がさえされては合意の意味がないので,法律上の取り消しや向こうの言い分を出せる場合に限定されています。ちなみに,決められたことを実施しない場合の解除については判例上できないとされています。

 

 取り消しができる場合は,相続人の中に未成年者(令和4年4月以降は20歳から18歳未満へ変更)がいて同意などがない場合や脅迫行為に基づく署名などの場合がありえます。ただ,通常は親権者に署名してもらう等のことが多いでしょうから,実際には前提となる事項に思い違いがあった・騙されていたといった場合に取り消し(前者は以前は無効とされていました)ができるのかが問題になります。ちなみに,相続人が漏れていた(後で認知によって相続人になった方が出てきた場合は別)場合には,遺産分割協議は無効になりますから,事前の相続人の調査は特に長年相続の手続きをしていない場合にはきちんと行う必要が出てきます。

 問題となる事項として,後になって遺言が存在することが判明した場合や重要な遺産の抜け漏れがあった場合・遺産の評価金額が実際とは大きく異なっていることが後で判明した場合などが考えられます。このうち,遺言が後に判明してそこで遺産分割での相続分の指定があった場合は別のコラムでも触れています。その指定が遺産分割協議での各相続人の判断に影響を与えるような内容の場合には,取り消しの原因となる可能性もあります。次に,財産の抜け落ちが存在する場合ですが,この場合にだれが取得するかをそもそもの協議の合意で決めておくこともあります(例えば,「後に遺産が判明した場合には○○が取得する」等)。抜けおいていた財産のみで協議がついていいとは合意が存在する場合にはなりがたく,協議の取り消しができるかどうかが大きな問題になるでしょう。漏れていた原因も関係するでしょうけれども(使い込みによる使途不明金なのか単に調査不足なのか等),その金額が大きいほどに遺産分割での合意内容への影響の可能性は大きくなるでしょう。実際には判断への影響がどこまで大きいのかがポイントかとは思われますが,金額等の点もそこに関係するものと思われます。

 評価の問題は,金額が違ったということやそもそも遺産に含まれるのかが問題となって実は違っていたことが後で判明した(裁判での解決を含む)場合などです。判断への影響が大きく取り消しができる場合なのかということは問題となりえます。

 

 ただ,いずれにしても,取り消しや無効ということができる場合は限られています。協議をする際には,前提事項などで誤りがないのかどうか・合意内容の意味するところやここで合意をしてもいいのかを資料などをきちんと確認したうえで行う必要があります。迷う際には専門家に相談のうえで決めたほうがいいと思われます。

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