法律のいろは

遺言書で「相続させる」対象とされた方の一部が遺言者より先になった場合に,その遺言はすべて無効になるのでしょうか?

2023年4月22日 更新 

 遺言を残す場合に,「相続させる」という文言は相続人の特定の方に財産を残す・持ち分を残す場合によく使われる方法であるかと思われます。その際に,「相続させる」対象となった方が遺言者よりも先に亡くなった場合については最高裁の判断(最高裁平成23年2月22日判決)が存在します。それを踏まえて,遺言者の意思が不明確にならないように,先に亡くなった場合にだれが引き継ぐのかなどを記載しているケースが多いのではないかと推測されます。

 「相続させる」とされる対象の方が亡くなった場合に,当然に対象の方の相続人に相続させる趣旨とは言えないので,先にすべての対象の方が亡くなれば,その遺言が効力を失ってしまうのが原則であるのはわかるように思われます。それでは,複数の方に別々の財産などを「相続させる」という内容である場合に一部の方が先に亡くなった場合にどうなるのかは問題になります。同じようにすべて効力を失うとも考えられますし,先に亡くなった一部の方についてのみ効力を失うとも考えられるためです。

 

 先ほど触れた最高裁の判断のケースでは,遺言を残した方の二人の子どものうち一人にすべて「相続させる」という遺言があったケースです。その対象となる方が先に亡くなった場合に,対象となった方の子どもが引き継ぐ形になるのか・遺言の効力が失われ,残る子どもが相続分に応じた権利を持つのかが問題になったものです。このようなケースでの遺言に書かれた記載から,先に「相続させる」対象となった方が遺言者よりも先に亡くなった場合に,その子どもにさらに相続させる趣旨までは原則として読み取れないという判断を示しています。

 これとは異なり,「相続させる」対象となる方が数人いてそれぞれに財産あるいは持ち分を「相続させる」という記載のある遺言が存在し,一部の方のみ遺言者よりも先に亡くなった場合に,遺言全体の効力に影響するのかが問題になった場合どう考えるのかが問題になたケースとして,東京地裁令和3年11月25日判決LEXDB25603176があります。このケースでは遺産分割調停での先に解決すべき問題として,遺言の効力・それに伴うだれがどの程度の権利を持っているのかが裁判で問題になっています。このケースでは,効力を失う範囲が全体か・先に亡くなった方に対応する部分なのかが先ほどの最高裁の判断をどう考えるのかを含め問題になっています。

 結論から言えば,裁判所の判断は,先に亡くなった方についてのみ遺言は効力を失うという判断をしています。遺言者の意向として,全体をどうするかを考えて遺言を残す以上,一部の方だけでも先に亡くなった場合には全体でその意味を失うという趣旨と読み取るのか・特定の財産を特定の方に残る意図は確実なものとして読み取れるのだから,そこは影響はないという趣旨と読み取れるのかという問題のようにも思われます。実際争った双方はその趣旨がどうなのか・先ほどの最高裁の判断が及ぶのは一部の方が先に亡くなった場合を含むのかで対立をしています。

 全体のバランスをとって決めたという趣旨がわかるケースはともかくとして,当然に全体に影響が波及するのかどうかは疑問に思われるところはあります。この裁判所の判断も最高裁の判断とはケースが異なるなどのところから判断をしています。ただ,「相続させる」対象となる方は核家族化の進展では少ないかもしれませんが,複数いる場合には同様のトラブルリスクもありえます。この裁判所の判断はあくまでも地裁レベルなので今後ほかの件でどうなるのかという問題もあります。面倒を防ぐならば,遺言書に一部の方が先に亡くなった場合の対応などもきちんと書いておく方が無難なようには思われます。

メールフォームもしくはお電話で、お問い合わせ・相談日時の予約をお願いします

早くから弁護士のサポートを得ることで、解決できることがたくさんあります。後悔しないためにも、1人で悩まず、お気軽にご相談下さい。誠実に対応させていただきます。