法律のいろは

「相続させる」という遺言で引き換えに支払いを負わせた場合の支払い限度は出てくるのでしょうか?

2023年4月28日 更新 

 遺言で,何かしらの財産を与える代わりに一定の義務を課すことを負担付き遺贈といいます。例えば,特定の財産を特定の子どもに残す代わりに一定の金額の支払いを別の方にさせるよう遺言を残すようなものです。この場合に支払いの上限については法律上に定めがあります。それは遺贈する物件の金額が上限となるというものです。特に,遺贈でもらった物件の価値が下がっていて,支払いを求められているお金の方が大きくなっている場合に,実際の負担金額が下がるという意味合いがあります。

 

 実際には遺言で特定の相続人になる方(子どもなど)に財産を残す場合には「○○は○○に相続させる」等の「相続させる」という記載のあるケースが多いのではないかと思われます。この場合に遺贈と考えて同じ規定が適用されるのかどうかは,ケースによっては問題になりえます。「相続させる」という記載のある遺言が遺贈と同じといえるかどうかが問題になります。相続に関する法改正が平成30年にされましたが,その前後を含め基本的には遺産分割方法の指定と理解されていて,原則として遺贈になるとは基本的には考えられていません。

 

 比較的最近に「相続させる」との記載のある遺言について,遺贈と同様に支払い金額に上限が生じるといえるかどうかなどが問題となった裁判例(東京地裁令和3年9月29日判決・判例タイムス1499号195頁)があります。このケースでは,簡単に言えば,遺言で特定の子どもたちに不動産の持ち分を「相続させる」という項目・一定の金額を不動産の持ち分を「相続」する方に支払い義務を課す項目が存在したものです。その不動産(土地)には,賃貸用物件(所有者は相続人が株式大半を保有する会社)が建てられているという事情があります。支払いの負担を求められた相続人が,土地について税務上認められている減額評価をしたうえで,支払い負担額が土地の評価を下回りその金額までに減額されるという主張をしたため,支払金額がどうなるのかが争いになったものです。

 そもそも,減額評価が税務上以外の場面でもなされるのかどうか・支払い上限を定めた規定が「相続させる」という遺言についても適用されるのかどうか等が争点となったものです(掲載資料からすると最終的には和解で解決した模様です)。

 

 支払い上限を定めた規定は遺贈に関する規定なので,「相続させる」という遺言が遺贈といえないならば,同様に考えることができるのかということが問題になります。結論から言えば,先ほど触れた理解と同様に遺贈とは考えられないと判断しています。これは「相続させる」という遺言に関する理解から示されています。そのうえで,支払い上限を定めた法律の規定を使うことができるのかに関して,支払い上限を遺贈について定めている法律の趣旨が「相続させる」という遺言の場合も同様に当てはまるということで,使うことができる(類推適用と呼ばれるもの)を認めています。

 ここでいう支払い上限額の金額はいつの時点を基準とするのか・金額評価をどうとらえるのかという問題が上限額はいくらかというところで問題になります。前者は相続開始時ととらえるという判断(異なる見解はこの裁判例の掲載雑誌に記載されています)がされています。金額評価は不動産鑑定その他のものでどれを規準にするのかという話のほかに,支払いを求められた側が主張するような税務評価での考慮要素が考慮されるのかという問題があります。判決では各不動産鑑定評価のどれを採用するのかという点が検討されていますが,税務評価での減額はしていません。ここでいう税務評価とは,土地の所有者と異なる方が建物を建てていた場合には,有償利用という賃貸要素がある場合には,一定額の借地負担が存在するものとして,その部分を減額するとされています。ここでいう税務評価とは相続税の課税価格評価のための通達上の扱いになります。

 税務評価とは別の場面ではありますので,異なる扱いがなされています。そのため,相続というと税務評価と考えがちですが注意が必要です。

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