法律のいろは

自筆証書遺言の全文や解釈・有効性が問題になるケースと問題点(裁判例を踏まえて)

2023年5月6日 更新 

 自筆証書遺言に限りませんが,特に自筆証書遺言では専門家がかかわらないこともあって,有効性だけでなくどのような意味を持つのかが問題になることもあります。大きな対立の場合には裁判にまで至ることもありえます。特に遺言の有効かどうかやその意味内容によっては,遺産分割によらずに取得できる財産などに大きな影響を与えかねませんので,遺産分割の前提の話としてトラブルになる可能性はあります。もちろん,話し合いで解決できるケースもありえます。

 

 自筆で書いた遺言では守るべき方式の問題や自分で本当に描いたのかということ以外に,書いてある内容の解釈が問題になるということ自体は別のコラムでも触れています。そのほかに,遺言書を入れている封筒に書いてある記載などによって,遺言書自体の意味が変わるのかどうか・そもそも法律でいうところの「全文」という遺言書の中身がどこまでなのかなどが問題になることもありえます。そうしたケースの一つとして東京高裁令和3年4月13日判決・LEXDB25590688 (1審は東京地裁令和3年7月25日判決・LEXDB25585783  )を今回触れたいと思います。

 このケースはあくまでも前提となる背景事情やそれを踏まえた封筒の記載・中身の記載などを踏まえたこのケース限りの判断として,遺言の内容の解釈やその有効性を判断しています。そのため,必ずしも一般化できるわけではありませんが,封筒の中に遺言書となるはずの書類が入れられて風をされている場合に,必ずしも中身の書類の記載だけが考慮されるわけではなく,有効背や内容が問題になると作成の経緯なども考慮されるということは言えるかと思われます。

 

 実際の内容は自筆で書かれた遺言の内容を前提に,その遺言を「相続」した方が払い戻し請求をしたのに対し,「相続」したといえるのかどうかが問題となったものです(細かな争点はありますが,ここでは単純化します)。判決文を前提としたケースの概略は,遺言を残した方は作成のころ配偶者ともに体調面に問題があったこと・子供が二人存在し,配偶者を含め「相続」させる事項を遺言書に記載していました。遺言書っは封筒に入れて風がしたうえで,封筒に「配偶者よりも先に遺言をした方が先に亡くなった場合」という記載がありました。実際には配偶者の方が先に亡くなったようです。

 この前提で,遺言書全体が,配偶者が後でなくなることを考慮したもので,先に配偶者がなくなることでその効力が生じることが亡くなったのかどうかが特に争いになっています。この解釈が成り立つならば,遺言は意味を持たなくなり,相続人の間で預金は共有となって遺産分割協議が終わるまで単独で全額の払い戻しはできなくなります。もちろん,現在の制度では仮払いの制度などは存在しますが,あくまでも一部についてという話になります。結論として,1審・2審ともに,配偶者が先に亡くなることで遺言の効力は生じなくなる前提で作成されたものであると解釈し,払い戻し請求は認めていません(預金が共有になるという点を示しています)。

 その判断にあたっては,これまでの裁判例や最高裁の示す解釈の基準(問題となる文言だけを形式的に解釈するだけでなく,全体の記載との関連や作成時の経緯や状況,遺言をした方の置かれていた状況などを踏まえて遺言をした方の真意を探求する)から破談をしています。そこでは,遺言書に配偶者が後に残された場合にその後の生活を心配する条項が存在していたということ・封筒の先ほど触れた記載内容や作成の際の状況や経緯などから,配偶者が後でなくなることを前提にその後の援助(一部相続人から受けることを前提に遺言書の項目を作成したものと理解しています。ここから,先に配偶者が亡くなった場合には遺言書の記載の効力が生じることはないものと判断しています。

 

 封筒の記載が当然に意味を持つとは必ずしも言えませんが,無視はできませんし,中身の記載なども重要となってきます。ただ,後で有効性が解釈とともに問題となると長い紛争になる可能性もありますので,作成の際には疑義がない形で作成を行うことが重要となってくるものと思われます。

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