法律のいろは

相続で,亡くなった方から生前援助を受けたことは,どう考えるのでしょうか?(その③)

2013年6月11日 更新 

 相続人の一人(特に子供)が,亡くなった方(被相続人)から,生前援助を受けていた場合に,遺産分割でどう考えるのかについて,これまで2回に触れました。

 

 こうした部分を遺産分割において調整するものとして,特別受益と呼ばれるものがあることを述べました。ただ,問題になる点として

  ①問題にしている事柄が,生計を立てるためのお金をもらったということができるか

  ②他の相続人との取り分の調整を行う必要がないという亡くなった方からの意思表示があったか

 があるのは,これまでも触れました。

 

 ①が問題となるのは,特別受益といえるのは,遺言による贈与を除けば

 ・援助,贈与がなされたこと

 ・援助,贈与が財産を受け取った側の生計の費用のためになされたこと

が必要だからです。

 このうち,贈与がなされたというには,あげる方と貰う方に贈与の合意が必要となります。生計の費用かどうかは,贈与・援助をした理由や金額から考えます。生計を立てていくのに関係あることとある程度まとまった額の財産を得たという必要があります。

 法律上の扶養義務の範囲内であれば,義務を果たしただけですから特別受益とはいえません。逆に相続分の前渡しと言えれば,基本的には特別受益となります。扶養義務の範囲内といえるかどうかは,亡くなった方(被相続人)の生前の財力や生活状況,受け取った側の状況等を考慮します。

 

 問題となる点をとりあえず2点挙げていきます。

 1 少しずつお金を相続人貰っていた場合で,長期間に及んだ場合に特別受益となるのでしょうか?

  1回あたりの金額が少額であれば,扶養義務などの範囲を超えて,調整が必要な程度に生計の費用のためになされたとは考えにくいです。ただし,援助・贈与をした理由にもよりますので,ケースバイケースです。少し話を離れますが,配偶者や孫に対する生前贈与をしているケースでは一見して相続人に対する贈与ではないため,特別受益の対象にはならないように見えます。とはいえ,財布が一つであるという事情や贈与された経緯や相続人自体がこの贈与によって大きな利益を受けている(生活費を賄うことが大きくできた)という場合には,利益を相続人に与えた範囲内で特別受益として調整すべきとする裁判例も存在します。そもそも,そうした場合に当たるのか・当たるとしてどこまでなのかはケースバイケースといえるでしょう。

 

 2 亡くなった方(被相続人)の通帳の払い出またしがあった場合は特別受益になるのでしょうか?

  単に通帳を預かっていた相続人が,お金を引き出しただけでは,贈与があったとは直ちには言えません。お金を引き出した時期と相当近い時期に近い金額のお金が相続人の口座などに入っていた場合でかつ被相続人も引き出しと出勤に同意をしていた場合には,贈与といえる可能性もあります。注意するべきは,この場合でも相続人が勝手に払い込んだのであれば,贈与ではないということです。被相続人の健康状態(身体的な病状や健康状態のほかに認知能力や機能がどうであったのか)によっては,到底引き出しなどを認識していたといえない場合も出てきます。

 贈与契約書や贈与税の申告があれば(後者は課税が発生する場合のみ),贈与の証拠とはなりえますが,お金の引き出しが問題になるケースではこうした証拠がないこともありえます。ちなみに,ほかのコラムでも触れていますが,贈与といえない場合には賠償や返還の問題が生じることもありえます。

  ですから,特別受益になるケースもあるということです。

 引き出したお金を無くなった方(被相続人)に渡したという話をしている場合には,実際に渡しているかどうかは問題となります。渡していたということであれば,当然贈与はないこととなります。

 通帳からの払い出しなどの問題は別の機会にも触れたいと思います。

 

 

 

 

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