法律のいろは

亡くなった方について生じた費用を相続開始から遺産分割まで行った場合の費用の清算はどうなるのでしょうか?

2021年3月13日 更新 

 葬儀その他の法要の費用の他に,亡くなった方の持っている不動産の管理費や固定資産税・その他各種の税金・電話代など公共料金など各種の費用その他の負担を相続人のどなたかがしているケースは相当程度あろうかと存じます。中には亡くなられる方の調子が急変後に預金から引き出して使うという方もいらっしゃいますが,そうしたこともなくお金を支払った相続人がいる場合にはその清算をどうするのかが問題となります。

 

 葬儀費用などはだれが負担するのかは各種の見解があります(詳しくは別のコラムで触れています)。そのため清算の話にはならない可能性もありますが,こうした各種の本来は亡くなった方の支払うべきお金(相続の対象となるものは法定相続分で各相続人が引き継ぐのが原則)については精算が必要になります。遺産分割協議を行う際にはこうした費用の清算についても合意を行うことで処理をするというのが最も一般的な方法と思われます。

 

 ここで解決すれば全く問題はありませんが,支出の証拠がない・その他の理由から清算に応じない・相続人自身が病気その他の理由から意思を示すことができないという場合には清算ができないこともありえます。この場合には,立て替えになる部分は清算を求めることになりますが,その根拠が何になるのかがまず問題になります。本来立て替える義務は存在しませんので,義務がないにも関わらず他の人が行うべき事柄を行った(法律上「事務管理」と呼ばれています)場合の費用償還の話が当てはまることになります。

 法律上は,その方の意思に反しない限りは「有益な支出」の費用の請求を行うことができるとされています。ここで支出をしないと延滞金が出てくることなどを踏まえると,各相続人の意思に反しているとは考え難いのが普通と思われます。ここにいう「有益に」というのは,その支出によって対象となる事柄の価値が増えるということだけではなく,維持管理のために必要な支出も含まれると一般には考えられています。立て替え分については,本来支払うべき費用であって遺産の維持管理には必要かつ支払わないと延滞金がつく等の事情がありますので,必要な支出に含まれるのが普通です。したがって,最悪はこの法律の規定を使って裁判で請求を行うことになります。ちなみに,この裁判とは遺産分割調停ではありません。

 これとは別の話で相続税がかかる場合に,法律上相続税は各自の税額が計算され各自申告し納付する(法律上は一緒に申告することができるとされ,別々に申告も可能)形となっています。面倒な点は「連帯納付義務」という連帯責任が発生する範囲と場合があるという話です。この場合に仮に「連帯納付義務」により支払いをした場合に,本来は支払いは別の相続人が行うべきものですからその部分の請求を行うことができます。問題は,こうしたケースでは回収を行うことができない場合がありうるという点です。なお,この立て替えについて,他の相続人が判断能力がなく,相続税の申告や納付を他の相続人が行った場合の費用清算の場合について判断をした最高裁の判断が存在します。

 このケースでは判断能力も失われ後見人も選任されていない相続人について,相続が発生したという事情が存在します。法律上の申告義務は相続開始を知ってから10か月(このケースのあったときは異なっています)経過するまでに申告と納税義務がありますが,判断能力がないとなると,その程度によっては知ることすらできないという考えも可能です。そのため申告や納付は意に反しているかどうかが問題になったものですが,別の規定では相続開始から一定期間経過すると税務署サイドで申告書提出前でも税額を決めることができるとされています。このことを踏まえて,申告や納付を他の相続人が行うことは直ちに判断能力を失っている相続人の利益に反することにはならないと判断しています。

 注意点は費用清算を当然にできないわけではないとしているので,できるかどうかはそのケースの事情によって異なるという点です。

 

 このように,各種の清算には個別の問題があることに注意をしておく必要があります。

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